直木賞作家・安部龍太郎さんの最新長編『銀嶺のかなた(一)利家と利長』と『銀嶺のかなた(二)新しい国』。加賀藩の礎を築いた前田利家・利長父子が、厳しい乱世を懸命に生き抜く姿は、「北國新聞」連載中から大きな反響を集めていた。

 著者の安部さんが執筆中に本作に懸ける思いを綴った寄稿と、2023年3月下旬、小説の舞台となっている富山県内の旧跡や名所を取材した際の写真を、単行本発売を記念して公開する。

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時代の移り変わりをとらえたい

 本紙(北國新聞)から連載のご依頼を受けた時、前田利家を書こうと思った。前々から興味を持っていたし、戦国時代は長年取り組んできたテーマでもある。
 
 問題はどんな構えで描くかということだが、利家と利長の父子関係を中心にしようとすぐに決めた。一般的には利長は利家ほど注目されていないが、関ヶ原の戦い前後の困難な状況の中で、加賀藩を百二十万石の大大名に育て上げたのは利長である。
 
 戦国時代の第一世代である利家と、天下泰平に向かう第二世代の利長。この二人の視点から描くことで、困難な時代を懸命に生き抜いた父子の姿と、時代の移り変りをとらえたいと思った。

戦国時代に前田利家ら織田軍と上杉軍の攻防の舞台となった魚津城跡。旧大町小敷地に設置された石碑を眺める安部さん(=3月27日、魚津市本町1丁目)