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信長が見込んだ利長の資質
『銀嶺のかなた―利家と利長』で描く利家像には、自分のそうした後悔も投影している。利家は戦国第一世代として、血まみれ泥まみれになりながら自分の道を切り開いてきた。
わずかな失敗が死につながる過酷な現実を切リ抜けてきただけに、息子の利長にもその生き方を伝授しようとする。それは父親としての愛情なのだが、利長にとってはかなり迷惑なのである。
一方、利長は二十歳の時に織田信長の娘永(玉泉院)と結婚し、利家の旧領だった越前府中三万三千石を与えられる。これは利家の七光りによる厚遇だととらえる向きもあるが、はたしてそうだろうか。
この頃の信長は戦国第一世代を整理し、息子信忠を中心にした第二世代によって天下統一の体制を作ろうとしていた。利長にはその一翼をになう資質があると見込んだからこそ娘婿にし、やがては北陸統治を任せるために越前府中に配したのではないだろうか。
物語は第二章「能登入国」の終盤に入ると、利家、利長父子は本能寺の変に遭遇し、厳しすぎる現実を生き抜くことになる。読者諸賢が二人に興味を持ち、物語を面白く読み進めていただくなら、これにすぐる喜びはない。
※写真、寄稿ともに「北國新聞」(2023年4月6日朝刊)提供。
INFORMATION
※『銀嶺のかなた』刊行を記念した安部龍太郎さんのサイン会が2024年12月15日(日)に金沢市内と富山市内で行われます。