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孫を持つ年齢になって父子関係の難しさを
父と子をテーマにした小説は数多い。ツルゲーネフの『父と子』は、地主で裕福な父の世代とニヒリズムや社会主義に影響を受けた息子の世代の葛藤をテーマにしている。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は、やはり大地主で淫蕩な父フョードルと、ドミートリィ、イワン、アリョーシャの三人の息子の愛憎をドラマチックに描き出している。
また子母澤貫(しもざわかん)の『父子鷹(おやこ)』は、勝小吉と海舟の父子の生き方を通じて幕末の動乱期をとらえたもので、この作品をきっかけにして、ともに優れた能力を持つ父と子のことを父子鷹と呼ぶようになった。
父と子をテーマにしたいと思ったのは、こうした作品に影響を受けたこともあるが、孫を持つ歳になって父子関係の難しさを痛感していることも大きな原因である。息子との対立に苦しんでいる友人は何人かいるし、父親の役目を放棄して我が道を行く知人もいる。
幸い私の息子はごく普通の社会人になってくれたが、子育ての過程においてこうすれば良かった、ああすれば良かったと後悔することは少なからずある。その頃には自分の仕事で精一杯で、息子のことを思いやる余裕がなかったのだ。