鈴木財務大臣の判断を仰ぎつつ、何度か、無難な代替案を提示して収束を図ったが、誰もおりてくれない。仕方ないので、暫時休会とし、各国大臣や財務官と私で調整に当たった。
なぜこんな事態になったのか。ハマスとパレスチナ過激派組織によるイスラエル攻撃は10月7日の早朝であった。まさにマラケシュでのG20や日本が議長を務めたG7の予備交渉の最中。しかし、中東情勢については私から藪蛇覚悟で探りを入れても各国から議論の要望はみられず、部下たちからは、明確に、外交当局の判断は、中東への言及なしで議論が纏まるはずなので敢えて言及する必要はなく、静観でよしとしているといった報告が続いた。実際、別の様々な論点では激論となったものの、本件については誰からも問題提起はなく、コミュニケはG7本会合開催前に無事、完全合意されていた(はずだった)。
難航する交渉に頭を抱えた
結局、ハマスの攻撃後、G7で共通認識を合意、公表することがないまま、G7の最初の対面会合、特に、成果文書をまとめなくてはならない会議が、我々のG7財務大臣・中央銀行総裁会議になってしまったことが不運であった。
外交に関わる大きな問題なので、ガザ関係の文言の交渉にあたって我が国外務省の見解を正規ルートで何度も求めたが、残念ながら、何の助言も得られなかった。官邸を煩わすのも躊躇されたし、仕方なく、日本時間の深夜に申し訳なかったが、ワシントンDCで同勤した頃から敬愛している国家安全保障局のA氏に相談し、そのアドバイスも踏まえ、各国大臣、財務官との交渉にあたった。
ある国の要望を踏まえてある案を出すと、別の国は、それではダメだ、元の方がマシだ。じゃあこれでどうだ。それなら、さっきのOKは撤回だ。そうすると公平な妥協案はこんなところではないか。すると、双方から、話が違う、と反対。頭を抱えた。
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本記事の全文は「文藝春秋」2025年1月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(神田眞人「ミスター円、世界を駆ける 第1回」)。
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