衆院選で自民党大敗の原因となった「裏金問題」。一度は廃止が決まったはずのパーティー券売上の「キックバック」はなぜ継続されたのか。ノンフィクション作家の森功氏が、その核心に迫る。

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手招きで呼ばれて廊下に出ると……

 東京・永田町にある自民党本部で2024年2月1日、安倍派(清和政策研究会)最後の総会が開かれた。

「安倍元総理の遺志を継いで政策実現に向けて運営してきましたが、このような事態になり、誠に残念無念です」

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 およそ70人の参加者に頭を下げる座長の塩谷立に対し、派閥の所属議員から責任論が噴出した。そこで手を挙げたのが、稲田朋美だ。

「塩谷さんは会長ではなかったでしょう。誰がこれを復活させたか。それが問題なんだから、そこを明らかにすべきなんじゃないですか」

 稲田の言う問題が、安倍派の政治資金パーティで収支報告書に不記載となってきた裏金システムを指すのは、参加議員の誰もがわかっている。派閥会長の安倍晋三はいったんキックバックの廃止を指示していたが、2022年7月に暗殺された。安倍派はそのひと月後の8月、裏金システムを継続するよう決めたとされる。予想通り、安倍派最後の総会は紛糾した。総会では、参議院議員の西田昌司も稲田に同調した。

「私らは何がどうなっているのかわからへんのです。そこをはっきりさせんことには、どないもこないもならんでしょう」

「記憶が曖昧で」と言葉を濁した西村康稔氏 Ⓒ時事通信社

 安倍派議員たちは会長代理から座長に就いた塩谷、元会長代理の下村博文、そして五人衆と呼ばれる幹部たちに批判の矛先を向けた。西田は責任追及の急先鋒の一人だ。発言した後、ふと五人衆の方を見ると、意味ありげな様子で西村康稔が西田に手招きをしている。そのまま廊下に出ると、西村が声を潜め、西田の耳元で囁いた。

「あれはある議員に泣きつかれてやむなくやったことなんで、何とかご理解を」