アルトマンに見えていた未来
当時はあまり注目されていなかったその予言は、実際この10年で現実味を大きく増しているわけだが、アルトマンが人並み外れているのは、その未来が当然やってくる前提で、いくつも具体的な手を打っていることである。
その筆頭が、核融合スタートアップへの投資だ。アルトマンは、OpenAIを創業する前の2014年から、この企業への投資に関わり、その後、個人で500億円以上を注ぎ込んでいる。その大きな理由は、「AGIの時代には、尋常じゃない量のエネルギーが必要になる」という未来が明確に見えていたことにある。
実際、ChatGPTとの対話は、グーグル検索の10倍の電力が必要とされ、今や長年停滞していたアメリカの電力需要が、AIブームを背景に反転し、今後5年間毎年9%伸びるとみられている。まさにアルトマンの予言が当たった形だ。
ほかにも、アルトマンは、AIが人間の雇用を奪う未来を念頭に、市民に無条件で月約15万円の現金給付を行う「ベーシック・インカム」の社会実験も3年にわたり実施し、報告書を出したばかりだ。
強烈なビジョンが仇にも
ジョブズがiPhoneという製品にとどまらず、「モバイルテクノロジー」で人々の生活を一変させたように、またマスクが電気自動車(EV)にとどまらず「炭化水素経済から太陽光電気経済へのシフト」を掲げて動いたように、アルトマンは「AGI」を軸に、未来自体を作り出そうとしているようにみえる。
ただ、アルトマンが、先述の起業家たちと共通しているのは、実は、こうしたポジティブなビジョンだけではない。そのビジョンが強烈すぎるあまりか、周りに多くの「犠牲」を強いていることも似通ってしまっている。
2023年11月、OpenAIでクーデターが発生し、アルトマンは一時的に追放された。その後、復帰したものの、そのドラマは、同じくアップルを一時追放されたジョブズを彷彿とさせた。
しかも、今年に入り、OpenAIでは人材の大量流出が続いている。苦楽をともにした側近幹部が何人も退職しており、11人いた共同創業者は、アルトマンを含め、わずか3人が残るだけになった。そのうちの一人だったマスクとは今や訴訟沙汰になってしまっている。
現状では、社内崩壊などは伝えられていないものの、アルトマンの強烈な経営スタイルや、AIの安全性軽視、ビジネス重視路線への転換(もともとは非営利の研究機関だった)などが、大量離脱の背景として報じられている。