この元自治会長は、明治から昭和にかけての建築が連なる通りに住んでいる。約60軒のうち55軒が倒壊したが、自宅は半壊で済んだ。秘密は合板だ。「壁に張るだけで強度が違います。ホームセンターで買えるし、自分でも作業ができます。近くでは同じように合板を壁に張った家がもう1軒助かりました」と言う。
全国には合板による耐震力強化策を紹介している自治体もある。元自治会長は森林組合の役員をしていて詳しかったが、大災害が相次いでいるだけに、他にも安くて簡単に防災力を高められる方法を真剣に広報していく時代になっている。
「能登」では多くの家が潰れたことで“想定外”の問題も浮き彫りになった。「阪神」ではなかったことだ。倒壊家屋に人が閉じ込められているのに津波が押し寄せる。道路に倒れた家を乗り越えて避難する途中で津波に襲われる。これら被害の実態は今も明らかになっていない。
軒並み住家が倒壊した石川県珠洲(すず)市の宝立町(ほうりゆうまち)。70代の男性は「毎年、避難訓練に参加してきました。ただ、潰れた家の屋根を乗り越えて逃げる訓練まではしていませんでした。ところが、実際には倒れた住宅が道路に立ちふさがり、見上げる高さに足がすくみました」と津波に呑まれた自宅を前に話していた。
「能登」ではボランティアに「来るな」という呼び掛けがなされた
南海トラフ地震で甚大な被害が見込まれる高知県では、揺れで8万棟、地震火災で5500棟、液状化で1100棟、急傾斜地の崩壊で710棟の建物が被災すると想定されている。そうした地区に高さが最大34mの津波が押し寄せ、6万6000棟が損壊する恐れがあるという。気軽に考えていては逃げられない。
「阪神」は従来の災害対策を一変させたと言われる。しかし、それだけを教訓にしていては対処できなくなった。こうした問題は様々な分野で発生している。
例えばボランティア。「阪神」では多くの人が被災地支援に駆けつけ、「ボランティア元年」と呼ばれた。一方、「能登」ではボランティアに「来るな」という呼び掛けがなされた。道路の損壊が激しいうえ、水も便所も寝る場所もない。「足手まといになる」とされたのだ。