「伊右衛門」「PlayStation」などを大ヒットに導いた国民的広告で知られる小西利行さんは、街づくりや地方創生のプロジェクトにも携わってきた。各界の経営者が絶賛する著書『すごい思考ツール』が話題のアイデアマンが、地域ブランディングの秘訣を伝える。
(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)
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名前の効果を熟知しているニューヨーカー
先日アメリカに行った時、ニューヨーカーは名前をつけるのが本当にうまいと実感した。例えば、マンハッタンの有名な地区であるTribeca(トライベッカ)はTriangle Below Canal(キャナル・ストリートの南側の三角地帯)からつけられた名前で、もともと倉庫街だったが、NYのアートの中心地となり、その後高級住宅地となっている。
Meatpacking(ミートパッキング)は食肉処理場や工業地域をおしゃれエリアに格上げした名前だし、SOHO( ソーホー)はSouth ofHouston Street の略で音楽とか美術の中心地となったエリア名だ。
実は、ニューヨークでは本当の住所名ではあまりコミュニケーションされず、ある特徴を持った地区が「ひとかたまりの名前」で定義されることで、エリアごと活況を呈した街だと言われる。まさに名前の力を使って地域活性化に成功してきたわけだ。
最新のエリアとして話題のNoMad(ノマド)はNorth of Madison Square Park の略で、ノマド(遊牧民)ワーカーという今っぽい働き方のイメージと合わせて名称化されたらしいが、この名前によりミッドタウンとダウンタウンに挟まれて無視されてきた地区がいきなり注目を浴びた。今や有名ホテルやレストランがこぞって「NoMad」を打ち出し、地区全体の価値がどんどん上昇し、出店が相次ぐという上昇スパイラルが生まれている。ニューヨーカーはやはり名前の効果を熟知しているし、名づけで価値を高めるプロでもあるわけだ。
地域の特性や共通の体験という視点で“新たに価値化”
それに対して、日本はまだ名前の強さを使い切れていない。京都や金沢、今では山口や盛岡が(ニューヨーク・タイムズのおかげで)世界的に注目されているが、それらは住所名を前提にしたコミュニケーションにとどまっている。
東京の「谷根千(谷中・根津・千駄木)」はエリアを名称化していて、昔の日本的な町並みや食への期待値を上げるのに貢献しているが、こうした試みがもっと増えると地域の価値はもっと高くなるだろう。その意味でも、地域の特性や共通の体験という視点で「新たに価値化する名付け」は、日本の地域の価値を上げる上で多いに開拓の余地があると思う。