容赦なく怒号が飛び、母親にも聞こえていたが…
首都圏在住のDくんは受験の期間、周りが見てもはっきり分かるほど頭部の髪が薄くなっていた。症状が現れたきっかけは「家庭教師」だったという。
中学受験を目指すことを決めたDくんは最初、日能研という塾に通うことになった。こちらもSAPIXと並ぶ大手の塾だ。小学3年生で入塾してしばらく順調に通っていたが、高学年になると成績が伸び悩んだ。日能研では成績順に座席が決まるため、プレッシャーも大きい。落ち込むDくんに母親は励ましの言葉をかけたが解決の気配は見えなかった。
そこで母親が家庭教師をつける提案をすると、Dくんが「やってみたい」と答えたため、中学受験指導のプロを名乗る家庭教師にお願いすることを決めた。
ところが、迎え入れた男性の家庭教師はかなりのスパルタで、宿題をやっていなければ容赦なく怒号が飛び、その声は部屋の外にいる母親にも聞こえていた。それでもその厳しさがDくんのためになるのならと静観していた。
しかししばらくすると、Dくんの髪が明らかに薄くなっていることに気づいた。あの怒号まじりのスパルタ式がDくんのストレスになっていると感じた母親は、本人に家庭教師を止めようと話をしたのだが、意外にも本人はこれを拒んだという。というのも、この家庭教師についてから模試での成績が上がり始めていたのだ。
「止めたくない!」と強く訴えるDくんに押し切られる形で、母親はこの家庭教師との契約を受験まで継続することに。ところが、志望校の受験結果は「全落ち」。出願の間に合う学校を受験してなんとか合格し、一度も見学に行ったことのない私立中学だったが、現在はその学校に通っている。本人の言葉で続けた家庭教師だったが、それがDくんを苦しませていたのではないかと母親は今でも後悔を抱えている。
抜毛症について医師などに話を聞くと、身体に症状が出ている場合は何よりも休むことが必要だと口を揃える。中学受験が迫ってくるプレッシャーの中で本人も親も休む判断をするには勇気が必要で、決断が遅くなる家庭も多いが、「止める」のではなくあくまでも「休む」ということで、本人の気持ちに寄り添う様子を見せるのが重要だという。