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 こうして3年がかりで王道の中学受験をする家庭がいる一方、最近目にするようになったのが1年間や半年といった短期間の準備で合格を目指す“省エネ受験”だ。

 省エネが可能になったのは、2教科入試や英語入試、特色入試と言われる新タイプ入試を導入した学校の存在が大きい。

 御三家を筆頭に難関校では国語、算数、理科、社会の4教科受験が必要なため、合格を目指すには1年の勉強では時間が足りない。しかし、国語と算数のみに絞った2教科入試や、特色入試ならば短期間での合格も無謀な話ではない。

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 中学受験の世界で、いち早く特色入試を導入したのは立教池袋中学校だと言われている。AO入試と呼ばれる第2回入試がそれにあたり、算数と国語の2教科試験と、自己アピールにより合否が決まることになる。過去の合格者には、ずっと続けてきたピアノの腕前を披露した子もいたという。

 大学入試で総合型選抜入試が脚光を浴びる中、中学入試でも立教池袋のような方式を導入する中高一貫校が増えてきたのだ。

鉄緑会 公式サイトより

3年間の塾代300万円が短期集中なら1/3に

 まだ偏差値的にはそれほど目立つ存在ではないが、家庭教育に詳しい岩田かおりさんは「心身の健康を壊すほどの受験はおすすめできません。中学の名前よりも、どんな学びができるかの中身で選ぶ時代です」と親にも子にも負担の少ない新タイプ入試を奨励する。

 岩田さんの主宰する教育コミュニティの中にも、大手の塾には通わず私立中学に合格した家庭がある。対策を新タイプ入試に必要な国語力の強化に絞り、半年だけ個人経営の塾に通って第一志望校の合格を手にする親子が出てきたという。

 省エネ受験では、かけるお金もミニマムに済む。大手塾に通えば3年生でも年間30万円ほどは必要で、6年生になれば100万円を超える。夏休みの夏期講習だけで30万円を超える塾もざらにある。小学3年生から通えば3年間でかかる費用はざっと300万円だ。

 それが半年だけの短期集中の省エネ受験ならば、100万円以下の費用で合格を手にする家庭もある。短期決戦のおかげで子どものストレスや疲弊も少なく、入学後も勉強に対するモチベーションが保たれる子が多い。

 新タイプ入試を導入後しばらく経つ学校では、すでに中学受験から6年が経ち大学進学実績もわかりつつある。難関大学に合格するケースも少なくなく、「中学受験でどれだけ頑張っても結局大学が一緒なら省エネ受験の方がいい」という声もあるほどだ。

 いまでも説明会で保護者の競争心を煽る話をする大手の塾も多いが、中学受験はゴールではなくほとんどの家庭はその後の進路も重視している。

 中学受験が呪縛になるか、親子の良い思い出になるか。選択肢が増えることで、親の悩みはさらに広がっていきそうだ。

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宮本 さおり

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