1ページ目から読む
2/2ページ目

王監督を見習った雰囲気作り

 そして、プロ野球選手だったという経験が、今もたくさん生かされているという。

「初めの頃、従業員から上がってくる報告は、報告というよりも愚痴ばかりでした。なので、今は『なんでも良い。些細なことでいいから一日でひとついい報告を持ってきてほしい』とお願いしています。あのスタッフの挨拶が元気だったとか、普段あまり笑わない○○さんがいつもより楽しそうだったとか。

 人間って悪いところはすぐ目につくけど、良いところはきちんと探さないと見えてこないものです。自然とスタッフの目配りや気配りが良くなっていく。職場の雰囲気も良くなるし、働き甲斐も出てくるんです。

ADVERTISEMENT

 逆に僕も従業員のいいところを探して、声をかけるようにしています。それは僕が現役時代に感じたことです。ずっとスタメンがなくて、控えでも2、3試合出番がなくなると『もうファームかな』と落ち込みそうになる。そんな時、必ず王(貞治)監督は『バッティングが良くなってきたな』とか声をかけてくれたんです。見てもらえているんだという安心感があったし、よし頑張ろうと何度も奮い立たせてもらいました。いま、社長をやってみて、王監督のその凄さを改めて感じます」

 

 介護職は人手不足や待遇面などでネガティブな印象を持たれがちだ。森本さんは「それを変えたい」と力強く言い切る。

「介護は魅力のある職業であり職場だと、周りに認めてもらわないといけない。そのためには今働いている人間がレベルを上げることが必要。僕らが笑顔になって、利用者さんも笑顔になれるし、生きる活力も生まれるんです。

 せっかくなら、仕事に楽しさを見出さなきゃ。小さなことでもいい。僕も最初は現場で研修をしていて、こんなことがありました。おじいちゃんのトイレ介助だったんですけど『ちょっと立ってくださいね』と言った時にウォシュレットのボタンを押してしまったみたいで、水がおじいちゃんのち○ち○に当たって俺の顔に降り注いできたんです。それが今の業界のスタートですよ(笑)。おじいちゃん、やめてーって騒ぎながら大笑いしました。怒ったり嫌になったりはしなかった。今こうやって喋ったらネタになるし、こんなオモロイこと普通ないでしょ。笑いに変えた方が楽しいやないですか。そんなのでもいいから、発想を変えていけば、仕事って楽しく思えるようになるんです」

 今後は、いま福岡で学んでいることも活用しながらさらなる展開を考えていると、目を輝かせながら話してくれた。

 あの日あの時にグラウンドで躍動していたアノ選手がユニフォームを脱いだ後もイキイキと頑張っている姿は、応援していたファンにとっても嬉しくなるもの。

 これからもまたOB選手を訪ねて、ぜひ書く機会を持ちたいと思う。

※1 一部修正(6/14 15:00)。阪神、広島で活躍し昨年引退した江草仁貴氏もデイサービス経営を始めているそうです。

※「文春野球コラム ペナントレース2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/-/7572でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。