「順位を付けるのは難しいですが、新国立劇場バレエ団・Kバレエ団・東京バレエ団、この三つが日本のプロバレエ団のトップ3かなと私は思っています。谷桃子バレエ団は、その次くらいに入れるように頑張りたいなという気持ちでいます」
時折言葉に詰まりながらも、髙部先生は願いを込めるように言った。聞きたいことはまだまだある。
「その三つのバレエ団と谷桃子バレエ団では、そもそも入ってくる人のレベルが違うということなんですか?」
「正直に言うと、この三つのバレエ団のオーディションを落ちた人たちが、うちに入ってきます。それは仕方ないですよね。だってダンサーはみんな新国立みたいにお給料をもらいながら踊りたいですもの」
俯き加減に、少し申し訳なさそうに話す。その姿は、レッスン中の鬼気迫る髙部先生とは別人のようだった。
「ほとんどのバレリーナがバイトをして生活しています」
「バレリーナたちを給料制にできるものですか?」
運営会社の担当者と初めて会った時に教えてもらったことが頭に浮かぶ。
「もし、このYouTubeの効果で人気が出て、チケットも売れるようになったら、谷桃子バレエ団でもゆくゆくはバレリーナたちを給料制にできるものですか?」
思い切って、僕は髙部先生に聞いてみた。
だって人気が出ても現状が変わらないのであれば、何のためにこのいるのかわからない。そんなことを考えながら、少し詰めよるような口調で質問してしまった。
片方の掌を頬に添えて、長い沈黙の後に髙部先生は口を開いた。
「もちろんそんな未来が来たら素晴らしいです。そうしたいと思ってます。でも実際は、私が生きている間に実現できるかどうか……」
この人はとことん嘘をつけない人だなと思った。カメラも回っているこの場で他の人が同じことを聞かれたら「給料制にするのが目標です! 絶対にしてみせます」と、高らかに宣言する人がほとんどだろう。
実際には実現出来る可能性が薄くても、綺麗事に近いことを言うのが、僕が過去に取材してきたトップに立つ人たちの常套手段だった。