「プロを目指すのであれば、コンクールに出る時の衣装代や交通費も必要になります。でも、そうやって頑張ってプロになったからといって日本ではバレエだけでは食べていけないのが現状です」と語るのは、創立75年を迎えた谷桃子バレエ団の芸術監督である高部尚子さん。
なぜバレリーナの生活は厳しいのか? なぜバイトに励んだり、仕送りを貰う子がいるのか? 業界の厳しさを、同バレエ団を追い続ける映像ディレクターの渡邊永人氏の新刊『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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「トップバレエ団」と「それ以外」の差
「KバレエはTBSがスポンサーに付いているのでここまで多額の助成金は必要ないんです」
テレビのキー局・TBSといえば紛れもない大企業だ。しかし、そもそもなぜ国内有数の大企業がバレエ団のスポンサーに付いてくれるのか?
「熊川哲也さんが大スターだからです。バレエに興味がない人でも熊川哲也さんの名前は知っている。渡邊さんも知っていたでしょ? 逆に髙部尚子は誰も知らない。やっぱり、その差ですね」
冗談めかして笑いながらも、少し俯きながら話す髙部先生。
もちろん「スターだから」というだけの理由ではないと思うのだが、確かに誰でも知っている人がいるというのは大きい。そもそも谷桃子バレエ団だって、元々は谷桃子さんというその時代では名の知れたバレリーナが立ち上げたのだ。やはりバレエの世界においても知名度というものは大切だということだ。
「やっぱり、バレエ団はスターが作らないといけないってことですね。もちろん谷桃子先生は大スターだったけど、谷先生亡き後のバレエ団をどうしていくか、それが難しい」
髙部先生は思い悩むように目を伏せた。
「実際のところ、谷桃子バレエ団は今プロバレエ界ではどのくらいの位置にいるんですか?」
もうここまで来たらとことん聞いてしまおう。配役会議が終わり、僕と髙部先生の二人だけになった応接間で少し失礼にも思える質問をぶつけた。