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試行錯誤を経て完成した登板日のルーティン

 投球術だけでなく、松坂は登板日の調整も試行錯誤を続け、今に至っている。

 通常、先発投手も他の投手と同様、試合開始4時間ほど前にグラウンドに姿を現し、一緒に練習をしてプレーボールに備える。

 しかし、松坂は違う。

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「これはアメリカに行ってからです。西武時代はチームと同じ行動をしていましたが、メジャーは先発投手に調整方法が任されているので、色々と試しました。さすがに2時間前だと慌しい。結局、3時間前の球場入りに落ち着きました」

 もちろん、球団も許可している。「僕と(ディロン)ジーは別行動でした。(オネルキ)ガルシアはみんなと一緒です」。

 午後6時試合開始の場合、松坂がナゴヤドームを訪れるのは午後3時。他の投手はすでに練習している。

 球場入りして最初にすることが意外だった。

「雑誌をパラパラ」と笑う。

「20分から30分ですね。コーヒーを飲みながら、ゴルフか車の雑誌。完全なリラックスタイムです」。いきなりスイッチをONにはしない。

「その後、トレーニングルームでストレッチ。バイクもこぎます。強度を上げて汗をかけるように。次は肩に刺激を与えるトレーニング。食事は麺類を半人前。4時半からはミーティング。5時過ぎにグラウンドに出てキャッチボール。距離は最大で70mから80m。最後にブルペン。全ての球種を投げますが、球数は決めていません。だいたい30球から40球で終わります」

 いつものルーティンをよどみなく答えた。

登板日の調整が今のスタイルになるまで、様々なことを試してきた ©文藝春秋

「今年で松坂は復活したのか」の問いに彼は……

 7試合3勝3敗。防御率2.41。先発投手として十分役割を果たしている。オールスターファン投票先発部門も1位。松坂登板翌日はチーム7連勝という新たな神話も生まれている。

 しかし、満足していない。2月、CBCテレビ「サンデードラゴンズ」で森本稀哲さんと対談した際、「投手としては(日米通算)200勝が大きな目標」と明言した。6月16日現在、167勝。戦いは続く。

「今年で松坂は復活したのか」の問いに彼は首を横に振った。「中5日、中6日で回らないとローテーションピッチャーとは言えません」。口元が引き締まった。「もっと長いイニングを投げないと」。眼光が鋭くなった。

 松坂はまだ勝ちたい。

 ひょっとしたら、まだ学び、まだ盗み、まだ試しているのかもしれない。平成の怪物は「勝利への執念」と「飽くなき探究心」で作られている。

 そして、これだけは言える。

 今なお、松坂大輔に負ける気なんて1ミリもない。

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