アメリカから国境を越えて、カナダに入った途端…
彼は相当傷ついたそうです。旅をすればするほど、アメリカにがっかりしていったそうです。国境を越え、カナダに入った瞬間でした。あれ? なんか目線が柔らかい、そう思ったそうです。予定のない旅ですから、今晩どこに泊まろうかと地図を見ていたら、人が近づいてきて彼に言いました。「何か困ってますか? お手伝いしましょうか?」と。パードン? アメリカで一度も聞いたことのない言葉でした。「This is a pen」に匹敵する教科書でしか見たことのない、日常には存在しないと思われていた言葉が実在したんです。「お手伝いしましょうか?」「あ、ありがとうございます。大丈夫です」そう答えると、またすぐ別の人が彼のところにやってきて言います。「大丈夫? 何か困ってる?」と。
彼はここに住みたい、そう思ったそうです。でも日本に家庭も会社もあるわけで、じゃ、とにかく、いつかここで商売をしよう、そう誓ったそうです。その後、彼はなんどもバンクーバーを訪れます。
で、彼に「僕が案内しますから。本当にいい街ですから」と熱烈に誘われ、バンクーバーに遊びに行ったのが始まりでした。
初バンクーバーで奇跡の出会い
2018年秋、初バンクーバー旅行のある日の夜。彼と彼の部下と3人でホテルのバーで飲んでいました。私たちはこのホテルには宿泊していません。遅くまでやってるバーがここしか見当たらなかったからです。飲むとすぐにトイレに行きたくなる体質の私の、二度目のトイレからの帰り道でした。バーとトイレが離れてて、廊下をぶらぶら歩いていると、エレベーター待ちの客が目に入りました。白いダウンコートの女性と黒いダウンコートの男性で、顔も見えないのになんとなく日本人とわかりました。なぜ、中国人でもない、韓国人でもない、日本人は日本人をわかるのだろう。小綺麗な服装? 醸し出す粒子? 日本人って確かに柔らかい、悪く言えば弱そうな空気を出してるからな。よく東南アジアの人が言ってるもんな。「中国人、韓国人、怖い。日本人は優しい。押せばなんでも買う」って。褒められてんのか、バカにされてんのか。でもそのカップルは、男性の方は背が高く、ガタイもよく、まるでプロレスラーのようでした。全然、弱そうに見えない、むしろ強そうに見える。でも優しい粒子が出ています。プロレスラー……優しい……バンクーバー……プロレスラー……えっ! まさか!? そのカップル、佐々木健介さんと北斗晶さんでした。