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おばさんが「刑務所に入りたい」理由は?

『団地のふたり』の後に始まった『一橋桐子の犯罪日記』(NHK)は、2022年にドラマ10で放送されていたものの再放送だ。

 主人公の一橋桐子(松坂慶子)は、人付き合いが苦手で友達もおらず、ずっと独身で生きてきたが、俳句の会で知り合った宮崎知子(由紀さおり)と同居するようになり、初めてしみじみと幸せを感じていた。しかし、彼女を病気で亡くし、生活もままならなくなり、刑務所に入ってそこを終の棲家にしようと、逮捕される方法を模索しはじめる。

『一橋桐子の犯罪日記』NHK公式サイトより

 こう聞くと暗い話に思えるが、『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(NHK)や、2025年度後期の朝ドラ『ばけばけ』などを手掛ける、ふじきみつ彦の脚本の雰囲気もあって、ドラマはしみじみとした可笑しさも漂う。

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 桐子は、思い描いていたような未来にたどり着けなかった人ではないからこそ、刑務所に入って、衣食住の安定を得ようと考える。しかし実は亡くなった知子もまた、夫のモラハラに耐え、夫に復讐をしようと日々、健康に悪い食事を作り続けた人生であったことが、物語が進む中であきらかになる。ふたりは、のほほんとしているように見えても、実は過酷な人生を生きていて、そのことが現実社会を生きる私たちとも重なって、他人事とは思えないものがあるのだ。

海女さんたちの復讐物語

 韓国の作品にも中年の物語が年々増えてきて、しかも、それがヒットする傾向にある。日本で今年の夏に公開された『密輸 1970』は、ファン・ジョンミン主演の『ベテラン』などを大ヒットに導いた、リュ・スンワン監督の作品だ。

『密輸 1970』映画公式サイトより

 とある漁村で海女をしているジンスク(ヨム・ジョンア)とチュンジャ(キム・ヘス)。しかし、近くに化学工場ができてからは、不漁続きで危機に瀕していた。やがて、彼女たちは密輸品の入った箱を海底から引き揚げる仕事を引き受けることになるが、すぐに摘発にあい、ジンスクたちは逮捕され、チュンジャだけは逃亡して逮捕を逃れた。それから2年後、チュンジャは(ファラ・フォーセットばりの)派手な出で立ちで、儲け話を持って漁村に戻ってくる。

 ジンスクは当初、チュンジャが逃げたことの裏になにがあるかを知らず、ふたりは反発しあっていたが、自分たちを貶めた本当の悪人や密告者に復讐するためにふたたび手を取り合う。これも、友情やお金や尊厳や「元の平和な生活」を取り戻すために、過去の失敗を乗り越える物語とも言える。

 日本の「失敗」を受け入れる中年女性のドラマと少し違うのは、「失敗」から学び、前に進んだり、過去を取り戻すことである。もちろん、この映画が、クライム・アクションであるという性質も関係があるだろう。