バサラはクリスマスマーケットの商品として、メインスポンサーである「EA THAPPY」の力を借りて大福餅やどら焼きを販売した。EA THAPPYはドイツを拠点に1000店舗以上を展開する手作り寿司やアジアンフードのチェーン店で、ローカル系では珍しく日本人からの評判が高く、在住者にとって救いのような店だ。
「ちっちゃなエリアのクリスマスマーケットなのに日本人の方がたくさん来てくださって、それは本当に嬉しかったんです。でも他のドイツ人たちは(定番の)グリューワインとかフライドポテトの屋台を出していて『もしかしたらちょっと違ったのかな』と。地元の人たちに認めてもらうには、もっと違う方法があったのかなって反省しました。でもそれも実際に屋台に立たせてもらわないとわからなかったんですけどね」
岡崎がブンデスやプレミアの選手だった頃は、ショップの一日店長になってもやることは簡単だった。ニッコリ微笑んでファンとの2ショットに収まれば後はスタッフがやってくれた。だがバサラにおいては岡崎が戦略から調整まで全てに頭をひねることになる。日本人のクラブという特色を出すことと、マインツの小さな街に受け入れてもらうことを両立する方法を考えるのも今は岡崎の仕事なのだ。
「サッカー選手って後半は悔しい思いをすることも減っていくんですよね」
ただ岡崎自身は、課題が常に降りかかる環境をむしろ望んでいたという。
「サッカー選手って、若い頃はいろんなものを身につけて成長していくけど、後半になるとそれをひとつひとつ削ぎ落としていくんですよ。無駄なことをしなくなるけど、同時に悔しい思いをすることも減っていくんですよね。だけどバサラでは、できないことや悔しいことだらけだからこそ、成長できる。それに選手の時と違って、悔しい思いも課題も共有して一緒に解決できる仲間がいる。それが楽しいですね」
すっかり立派な社会人になったかと思いきや、ふいに覗く言葉からは岡崎の「芯の部分」が変わっていないことも伝わってくる。
「とにかく勝ちたいわけですよ。勝って上にのしあがっていきたいという思いは選手時代と変わらなくて。そのための手段はいろいろあって、選手のリクルート、営業、クラブ内部の整備、地域とのパートナーシップ、監督としての成長……。とにかくやることがいっぱいで、クラブを運営するって大変なんだなってあらためて感じているところです」
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。