被害者は韓国ラウンジのママとして働く41歳女性。彼女はなぜ死ななければならなかったのか? 警察官と犯罪者…2011年に起きた、許されざる愛が招いた不幸な事件を、前後編に分けてお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/後編を読む)

41歳の韓国人女性がバラバラにされた理由とは…? 写真はイメージ ©getty

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「人の足みたいなものが浮いています…」

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 それを最初に発見したのは港近くの海洋レストランの従業員だった。半信半疑だった副料理長が休憩時間に確認に行ったところ、店の前の桟橋の下に肉のかたまりが浮かんでおり、足の指が付いているのを発見。直ちに警察に届けた。

被害者は41歳の韓国人女性、夫は元警察

 被害者は約1カ月前に失踪していた韓国ラウンジママの文美麗(当時41)と判明した。夫の関口俊郎(当時50)が失踪から2日後に捜索願を出していた。

 ところが、関口は遺体が発見された翌日に、何者かに襲われ、肝臓を貫通する刺し傷を負い、病院に入院中であることが分かった。

 しかも、関口は20年以上も警察に勤めた元警部補だった。在職中は薬物事犯や風俗店などを取り締まる生活安全課に在籍していた。数年前、オーバーステイだった美麗と結婚したため、警察官を辞めたという経緯もあった。警察は夫婦が何らかの事件に巻き込まれた可能性もあるとみて、慎重に捜査を開始した。

 関口と美麗が知り合ったのは約15年前。当時、関口は最初の妻と離婚したばかりで、美麗が勤める店を管轄する警察署に勤めていた。

 2人はプライベートでも親しくなり、男女の仲に発展。美麗は「日本の警察官だし、頼もしい。彼が好きなので、仕事もやめたい」というほど入れ込んでいた。

 だが、警部補昇進試験を控えていた関口は自らの将来を考え、いったん美麗と別れた。その後、同僚の女性警察官と再婚。しかし、別の警察署に異動したところ、偶然にも店を変わっていた美麗と再会した。美麗は「これは運命の出会いに違いない」と感激し、なおのこと関口に熱を上げた。

 関口は妻に隠れて美麗とも付き合うようになった。だが、それがバレて離婚話に発展。妻と離婚すると、すでに同棲していた美麗との婚姻届を提出した。

 ところが、それが原因で美麗の不法滞在が発覚することになった。美麗は入管難民法違反で検挙され、関口はそのほう助罪で書類送検された。その責任を取って警察官を退職したが、関口は美麗との結婚を貫き、美麗は日本人配偶者としての在留資格を取得した。

「ごめんね、私のせいで職を失うことになって…」

 美麗は自責の念から、生活費を自分で稼いで関口との結婚生活を維持した。

 金を貯めて自分の店を持ち、韓国ラウンジのママになった。関口は美麗の紹介で、自動販売機にジュースを補充する仕事を始めた。

 だが、関口は警察を辞めたことによって、経済事情が一変した。最初の妻との間には一人娘がいたが、子煩悩の関口は毎月養育費を送り、それを維持するためにサラ金で借金を重ねた。

 その借金が膨れ上がり、勤務先の社長から400万円を借りた。その金がやむを得ないものであることは美麗も納得していたが、美麗は毎月25万円を関口に返済金として渡していたにもかかわらず、関口はその金のうち10万円しか返済に充てていなかった。