過去を改変することは可能なのか。時間SFというアイデアとジャンルが誕生したときから、SF作家と読者はその謎と可能性に魅せられた。
春ドラマ『シグナル』は、なんとしてでも過去を変え、不幸で理不尽な未来と現在を救おうという警察ドラマだ。
タイムマシンは登場しないし、登場人物が自在にタイムリープできるわけでもない。廃棄処分されそうになっていた古い無線機を、警察官の三枝健人(坂口健太郎)が手にとると、「三枝警部補ですか?」と問いかける声がする。
無線機で交信(シグナル)してきた相手は、二十年前の世界で生きる刑事の大山剛志(北村一輝)だった。大山はかつて起きた女児殺害事件に触れ、「真犯人は別にいる」と告げる。
一台の無線機で、過去と現在がつながり、二人の警察官が未解決事件の解明のためにタッグを組む。プロファイラーの資格を持つ三枝は、熱血刑事の大山が語る断片的な情報を分析して、彼に適確な指示を伝えていく。
時間SFの設定を借りた警察ドラマ。この異色アイデアが効いている。あるとき、女性連続殺害事件を追う大山から交信があった。三枝が調べると女性は七人殺されていた。しかし大山は四人が殺害されたと伝えている。ならば五人目の殺害を阻止できるかもしれない。三枝の推理を聞いた大山が現場に急行し、被害者は一命をとりとめる。
三枝が連続殺害事件のファイルを見ていると、文字がゆらゆら揺らぎ、五件目の殺害事件は未遂と記されていた。
原作は韓国の大ヒット・ドラマだ。政府と財閥と警察の癒着への怒りが強い韓国ならではの激情あふれる展開で、この圧の強さが、好悪の分かれるところかもしれない。
三枝の上司、桜井美咲を演じる吉瀬美智子も、いい味を出している。その美咲が、冤罪事件の被害者が起こした警察への復讐で爆殺された。三枝は大山に情報を伝え、過去の冤罪捜査を覆す。
翌朝。美咲のデスクを心配そうに見ていた三枝に「何してるのよ」と声がかかる。美咲は生きていた。また現在が変わったのだ。
しかし当の美咲はむろん、捜査班の仲間たちも美咲の爆死を覚えていない。知っているのは、無線機で交信する三枝と大山だけだ。これを素直に受け入れられるかどうか。
またも評価の分かれるところだが、視聴者をそこまで考えさせる熱量が、このドラマには詰まっている。
▼『シグナル』
フジテレビ系 火 21:00〜21:54
https://www.ktv.jp/signal/index.html