「私って、なんて家庭運に恵まれない役が来るんだろう」と(笑)
次の『知床慕情』でも寅さんと相思相愛の仲になります。北海道は知床に辿り着いた寅さんは、獣医の順吉(三船敏郎)の家に招かれる。私は東京から帰ってくる娘りん子。私自身、上京してお世話になったのが三船プロダクションでしたから、三船さんと父娘役を演じられるのが楽しみで。三船さんは告白できない男を繊細にチャーミングに演じられていました。順吉と恋するスナックのママ悦子は淡路恵子さん。淡路さんはダサいエプロンをした街場のママなのに、匂い立つ色気があるんですよ。その姿を見て、監督が不意に「現役ですね!」と感嘆されていたのは忘れられません。待ち時間に演技から私生活までお喋り出来て、本当にステキな女性でした。
朋子も、りん子も離婚して出戻った女性。「私って、なんて家庭運に恵まれない役が来るんだろう」と(笑)。しかも寅さんにも逃げられる。恋が実りそうになると、自ら遠ざかる寅さん。旅から旅の生活、責任の重さに耐えかねるのか、男としての自分を過小評価し、相手に相応しくないと身を引いてしまうのか。わかりませんけど、ちょっとずるいと思いませんか?
そして『寅次郎心の旅路』。平成初の寅さんの舞台はウィーン。空港から市街地までヘルムート市長の下、全面協力で撮影されました。柄本明さん演じる心身衰弱のサラリーマンと珍道中を繰り広げる寅さんが出逢うのが、私が演じるツアーガイドの久美子です。今回の淡路さんは、ジャンヌ・モローのような妖艶さと、久美子の後見人のような頼もしいマダム役でした。フラれフラれて、三度目の正直とばかり、やっと寅さんをフってやりました(笑)。
こうして3本を振り返ると、山田監督と渥美さんをはじめとする共演者の方に恵まれました。そして、高梁、知床、ウィーン……異郷にいるからこそ感じる望郷、失われていく実景への追慕、そして寅さんによって取り戻した自分、人の幸せを考えること、人情。たくさんの宝物を頂けたと思います。
INFORMATION
劇場公開55周年を記念し、第1作『男はつらいよ』がシリーズ初の4K ULTRA HD Blu-rayで発売された。特典として山田洋次監督作では初となる「シナリオ写真集」を封入。撮影で使用された決定稿を楽しめる(数量限定生産、8,800円 発売・販売元:松竹 ©1969松竹株式会社)