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プロポーズを受けた悩みに対する寅さんの優しい答え

 その15年後、プロデューサーの島津清さんが、訪ねて下さり、『柴又より愛をこめて』へのオファーをいただきました。前作が楽しい記憶ばかり、渥美さんと再びご一緒できるのが嬉しくてお受けしたんです。

 演じたのは、伊豆諸島は式根島の小学校教諭、真知子。俳優の仕事は日頃から準備が必須です。演劇の役作りとは違い、解釈というより、真知子先生の設定を把握し映像の中で自然に存在し、生きることを心がけました。教師役は何度か演じた経験もありましたが、教育関係の集いや懇談会など機会があれば積極的に参加しました。

『柴又より〜』は渥美さんを中心に山田監督が作り上げたファミリーの中で、ドラマ性の比重が大きい作品だと感じました。真知子がプロポーズを受けた悩みを寅さんに打ち明ける場面。

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真知子「身を焦がすような恋の苦しみとか、大声で叫びたいような喜びとか、胸がちぎれそうな悲しみとか、そんな感情は胸にしまって鍵をしたまま一生開けることもなくなってしまう」

 そんな将来の不安に、寅さんは自身の失恋の痛みを超えて優しく答えるんです。

寅次郎「その男の人はきっといい人ですよ」

『新 男はつらいよ』(1970年、小林俊一監督) 写真提供:松竹

『新 男はつらいよ』では黙って去っていった寅さんが、今度は相手の幸せを思いやって背中を押してくれたんです。寅さんの世界も変わらないようで変わっている。各々が成長してるんです。真知子と寅さんは時代と人生の機微を表現できたように思います。2作目の共演は、私にとって美しい再会になりました。

 車寅次郎を26年間、演じ続けた渥美さん。私も舞台で一つの役を十数年演じたことがあります。その大変さは身をもってわかります。そして今も愛され続ける渥美さん。改めて尊敬の念をお伝えしたいです。