高部 残念ながらそうですね……。ご実家が東京にあればまた違うのでしょうが、地方から上京して一人暮らしとなると、どうしても生活が大変です。金銭的な事情でバレリーナの道を泣く泣く諦めることになった団員はこれまで大勢いました。「家族が病気になったので、自分が家庭を支えないといけなくなった」など、ご家族の事情が多かったですね。
1公演にかかる費用は3000万~4000万円
――バレリーナ個人だけでなく、バレエ団側もカツカツだと聞きました。公演にお金がかかるのでしょうか?
高部 ひとつの公演をやるのに、劇場のレンタル代、オーケストラ代、装置代、スタッフの人件費など全部で大体3000~4000万円が必要です。なので、政府の助成金が下りるかどうかは死活問題ですが、助成金が下りたからといって、公演は基本的に赤字です。ただ、現在ありがたいことに赤字が減ってきました。ひとつの公演のステージ数を増やして、そのぶんチケットを売ることができれば収益も増えるので、団員たちに少しずつ還元していければと考えています。
――公式YouTubeチャンネルでは、こういったバレエ業界の金銭事情にも踏み込んでいます。動画の方向性が変わると聞いたとき、どのように感じましたか? 担当ディレクターの渡邊永人さん(株式会社Sync Creative Management所属)は、有名キャバクラ嬢に密着するなど、ひとつの業界の舞台裏を赤裸々に明かすような企画で実績のある会社に所属する方です。
高部 初めに「団員の自宅で撮影することもあります」などと聞かされて、やはり少し躊躇はしました。でも稽古場での練習風景だけを公開していても知名度は上がらないというのは実感していたので、「大きくやり方を変えなければいけない時期なんだ」と覚悟を決めました。
――本格的にヒヤヒヤするようになったのは、いつ頃だったのでしょうか?
高部 10万人くらいの方々が動画を視聴してくださるようになり、ありがたいと感じると同時に、「この発言をそう受け止めてしまったのか」という予想外の反応が来て戸惑うこともありました。あとは動画のサムネイル画像もなんだか大げさに感じられて……。ただ、最初に覚悟を決めた以上、基本的には「ディレクターの渡邊さんにお任せします」というスタンスでいました。
――では高部さんのほうで企画にストップをかけたことは一度もない?
