バレエを始めたのは3歳のとき。周囲が認める才能があり、その活動を応援してくれる人もいる男性バレエダンサーの森脇崇行さん(取材当時21歳)。しかし、そんな彼も「一度はバレエをやめた」ことがあるという。いったい彼に何があったのか? そして無事、カムバックできた理由とは? 谷桃子バレエ団を追い続ける映像ディレクターの渡邊永人氏(株式会社Sync Creative Management所属)の新刊『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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3%。
25万人以上いるバレエ人口のうち、男性が占める割合だ。その数8000人。
「母が昔バレエをやっていた縁で、3歳からバレエを始めました」
そう話すのは森脇崇行さん、21歳。
「彼は将来有望なプリンシパル候補です」
髙部先生も期待を寄せている男性ダンサーだ。
「入団1年目で主役級」若手のホープの人柄
それもそのはず、森脇さんは、芸術監督の髙部先生と同じく、世界的な若手バレエダンサーの登竜門・ローザンヌ国際バレエコンクールのファイナリストだ。谷桃子バレエ団では、入団1年目で主役級の役柄を任される若手のホープである。
ただでさえ男性人口が少ないバレエの世界。だから才能ある男性ダンサーは本当にごくわずかであり、とても貴重な存在なのだ。
「出身は広島です。1年前に入団と同時に上京してきました」
一人暮らしをしているワンルームの部屋でそう教えてくれた。喋り方は少しゆったりしていてマイペースな感じだ。どちらかといえば草食系男子といったところだろう。
しかし踊りになると、普段の雰囲気とは真逆の力強さを見せるから、そのギャップに毎度驚く。バレエ素人の僕でも「何かが違う」とわかるほどだ――実際にはわかった気になっているだけかもしれないが。
滞空時間の長いジャンプを可能にする跳躍力、体に一本軸が通っているような安定感抜群の回転。練習を撮影していても、特に森脇さんが回転をした後は、自然に拍手が起こることが多い。撮影を続けていくうちにわかったことだが、素晴らしい技を披露した時は練習中でも拍手が起こるというのは、「バレエあるある」だそうだ。
ちなみに僕は人生で「バレエをやろうかな」と思ったことが一度もない。僕に限らず、そんな男性は少なくないはずだ。