コロナの影響で海外のプロバレエ団で踊る夢が破れてしまったバレエダンサーの森脇崇行さん(取材当時21歳)。いっときはバレエから完全に離れ、アルバイト生活をしていた彼を救った「ある出会い」とは? 谷桃子バレエ団を追い続ける映像ディレクターの渡邊永人氏(株式会社Sync Creative Management所属)の新刊『崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
◆◆◆
バレエをやめた彼を引き戻した「ある人物」
森脇さんを再びバレエの道へと引き戻したのは、同じ男性ダンサーで、谷桃子バレエ団のプリンシパルである、今井智也さんだった。
今井さんは入団20年のベテランで、年齢は40歳。プリンシパルとして踊りながら、高校生の娘さんを男手一つで育てているという。それだけでも密着のしがいがあるのだが、彼にはYouTubeとは相性の悪い、ある一面があった。
「喋るのは苦手なので、カメラはちょっとごめんなさい」
ダイナミックな踊りとは裏腹に、意外にもシャイな性格でカメラに映ることを極端に嫌がる。確かに150人も団員がいれば、「カメラが嫌」という人がいるのも当然だ。しかし、よりにもよってプリンシパルがそうだというから僕としては頭を悩まされる。とはいえ、今井さんはカメラが回っていなければ、とても優しく僕に接してくれる。とある撮影で長机を使った際には、「片付けはやっておきます」と、率先して、プリンシパル自ら重い長机を片付けてくれた。そんなこともあり、いつか密着撮影も、その優しさでOKしてくれるような気がしている。
そんな今井さんがゲスト出演した関西のバレエ教室の発表会に、偶然居合わせたのが森脇さんだった。
「父の親戚がバレエ教室の先生をやっていたので『助っ人として、どうしても発表会に出て欲しい』と頼まれて、たまたま出ることになったんです」
1年間、バレエとは無縁のバイト漬けの生活を送っていた森脇さんだったが、その優しい性格からなのか、親戚の頼みを断ることができず、バレエ教室の発表会にゲスト出演。
そこで出会った今井さんはすぐに森脇さんの才能を見抜いたが、「今はバレエを辞めている」と聞いて驚く。ブランクがあるとは思えないレベルの森脇さんの踊りを見て、居ても立っても居られなくなり、「一度谷桃子バレエ団の練習を観にこないか」と誘ったのだという。