「ちょうど東京に用事もあったので」
偶然に偶然が重なり、谷桃子バレエ団の練習に参加したのだ。
「これは僕自身、思ってもみなかったことだったんですが、僕がバレエに戻ることを周りの人たちがとても喜んでくれたんです。それでもう1回やってみようという気持ちになりました」
バイト生活がダメとか、そういう話ではない。森脇さんが一番輝く場所に戻ることを、家族をはじめ周囲の人たちも望んでいたのかもしれない。そんな経緯で森脇さんのバレエ人生が再び始まった。
プロバレエ界では「女性より男性の方が稼ぎやすい」
「今はなんとかバレエだけで生活できています。バレエ団の他に、発表会のゲストなど外部の仕事での出演料をいただけているので」
女性との違いで一番驚いたのが、バレエ団以外の外部仕事の多さだ。プロバレエ界では「女性より男性の方が稼ぎやすい」という事実がある。
その理由はいたってシンプル。男性ダンサーの方が「需要」が多く、「供給」が少ないからだ。
例えば、バレエ教室で発表会をしようと思った時、出演生徒のほとんどは女性であり、女性の相手役や、男性側の主役を踊れるようなポテンシャルを持った男性が在籍していないケースが多い。その時に白羽の矢が立つのが、森脇さんのようなプロの男性ダンサーだ。
男性ゲストとしてアマチュアのバレエ教室の発表会に出演する。その出演料として支払われるギャラが男性ダンサーの生活を支える収入となるのだ。そうやって所属するバレエ団以外の仕事を複数掛け持ちすることで、女性よりも収入が多くなるという。
「ただ、男性ダンサーの外部仕事が多いことはバレエ団にとって良い面ばかりではないんです」
ある時髙部先生がそう言っていた。