YouTube制作者との「すれ違い」が起きたことも…
高部 私が泣いた動画があったでしょう? 渡邊さんに「団費が欲しいから団員を入れるのか」と質問されて、あまりの悔しさにプッチーンときて涙が出てしまったのですが、あの動画だけは「公開しないでください」と頼みました。そこからせっかくの機会なので、サムネイルなど前から引っかかっていたこともお伝えして、お互いお腹を割って話をさせていただきました。
でも渡邊さんに「高部さんが思うようなきれいな動画を出してみてもいいけど、たぶんそれだと視聴者は減りますよ」と説明されて、もう何も言えませんでしたね……(苦笑)。
――谷桃子バレエ団の運営会社からYouTubeチャンネルのテコ入れを依頼されて、渡邊さんは自分なりのやり方でベストを尽くそうとしていたのだと思いますが、お互いのカルチャーが全く違うせいで、どうしてもすれ違う場面が出てきてしまいますよね。いろいろ葛藤も抱えながら、「それでもYouTubeをやっていてよかった」と感じたのはいつ頃ですか?
高部 昨年の新春公演『白鳥の湖』で公演がひとつ完売して、その後の6月公演では全公演がソールドアウトになったときですね。犠牲とまでは言いませんが、動画撮影のために我慢していた部分が少なからずあったのも事実です。私だけでなく、ダンサーみんないろいろな姿を撮られてきましたから、「みんなで頑張ってきてよかった」と素直に感じました。
今ではYouTubeディレクターも「団員のひとり」
――火花が散るような瞬間も経て、ディレクターの渡邊さんとは現在どのような関係なのでしょうか?
高部 今はもういるのが当たり前の存在ですね。最近だとダンサーたちも渡邊さんが撮影しやすいように進んで協力しています。また、渡邊さんは渡邊さんで以前はなんでも遠慮なくズバズバ聞いていたけど、私たちのことを知るにつれて、「この質問はしづらいな」と葛藤を抱くようになったのが伝わってきます。もはや渡邊さんは、ひとりの団員のような感覚でしょうか。
――お互いリスペクトする関係性にたどり着いたんですね。谷桃子バレエ団では、イヤホンガイドの導入や応援グッズなど新しい試みがいろいろ始まっています。YouTubeチャンネルの方針転換を皮切りに、バレエ団全体にチャレンジ精神が広がっているような印象を受けます。
高部 そうですね。以前は何か新しいことを始めるとなったら、おっかなびっくり取り組んでいましたが、今は「お客さんに喜んでもらえるなら、なんでも率先してやってみようじゃないか!」という空気ができてきました。
――現在、谷桃子バレエ団の団員は何名ですか?
高部 150名ほどが所属しています。本隊とセカンドカンパニー、アプレンティス、ユースと4つのクラスに分かれており、ユースは本公演でまだ踊れず、アプレンティスも多少程度なので、現役で踊っているのは大体90~100名くらいでしょうか。
――過去に動画で、「新国立劇場バレエ団などのオーディションに落ちたダンサーがうちに来る」のように自虐していましたが、今は「なんだか楽しそう!」と最初から谷桃子バレエ団志望でやってくる団員も出てきたのでは?
高部 少しずつ増えてきている印象ですね。
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