夢の200勝には程遠いけれど… 復帰を目指す理由
巨人に移籍した直後の杉内にじっくりと話を聞いたことがある。
『上半身が水になっているイメージを追い求めている』
『打者を抑えるのに球速はそれほど重要じゃない。キャッチボールと同じような力感で130キロが出せれば絶対に打たれない』
『投球前に左手を上げるのは指先にたまった血液を戻すため』
『正直、自分のボールがなぜ打ちにくいのかがわからない。打者の立場で自分のスライダーやチェンジアップを見てみたい』
自身のピッチングを語る際にのぞく天才らしい繊細な感覚に驚かされつつも、最後に尋ねた。
今後の野球人生で達成したい夢はなんですか?
『今通算103勝なので……巨人で200勝を挙げることですかね』
まだ31歳になったばかり。バリバリに脂がのっていた杉内はこう答えてくれた。その後の3年間で33勝を挙げて順調に夢に近づいているように見えたが、2015年に股関節痛で戦列を離れると、勝ち星の数は「142」のまま足踏みを続けている。
天才左腕も10月には38歳になる。今後もし復帰できたとしても、以前のような快刀乱麻のピッチングができるとは杉内も周囲も思っていないはずだ。夢の200勝だって現実的ではない。では、なぜ復帰を目指すのか。それはきっと他の多くの選手と同じように「納得」するためなのだと思う。3年間の雌伏の時を経てようやく復活を果たした松坂大輔、独立リーグに活路を求めた村田修一、ビハインドでもマウンドに上がり、まるで便利屋のような働きを見せる藤川球児。一度は頂点を極めた同年代の選手たちもまた、最高だった自分と、今の自分のギャップに折り合いをつけつつも「死に場所」を追い求めている。
満足が叶わないなら、せめて納得を。瀬戸際に追い込まれた選手たちの最後の戦いに「勝ち」はおそらくない。だが、これもまた、「絶対に負けられない戦い」なのだ。
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