人間にとって一番怖いものはなにか。それは人間かもしれない。ノンフィクションライターの小野一光さんは、福岡県で起きた連続強盗殺人事件の取材を続けてきた。女性ばかりを狙った犯人はどんな人物だったのか――。

写真提供=共同通信社 鈴木泰徳容疑者を立ち会わせて行われた大井北公園での現場検証=2005年3月24日午前、福岡市博多区 - 写真提供=共同通信社

「福岡3女性連続強盗殺人事件」のろくでもない犯人

その男の犯行内容がろくでもないことはわかっていた。だが、そのろくでもなさが、私の想像を超えていたことが明らかになったのは、後に彼が通い詰めていたスナックの点在する、歓楽街を取材したときのことである。

男の名は鈴木泰徳元死刑囚(2019年8月2日に福岡拘置所で死刑執行。当時50)。

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彼は04年12月12日、福岡県飯塚市の公園で専門学校生のA子さん(当時18)を絞殺。続いて同月31日に北九州市の路上で仕事に向かうパート従業員のB子さん(当時62)を刺殺し、現金入りのバッグを強奪する。そして05年1月18日には福岡市の公園で、通勤途中だった会社員のC子さん(23)を刺殺して、手提げバッグを強奪した、通称「福岡3女性連続強盗殺人事件」の犯人である。

05年3月4日に逮捕された、直方市に住む土木作業員の鈴木は当時35歳。犯行時に彼は運送会社に勤めており、トラックで生鮮食品などの配送をやっていた。

パチンコやスナック遊びなどで多額の借金を抱えていた鈴木は、親に借金の補填をしてもらうなどしていたが、それにも限界があった。やがて、生活を改めようとしない彼は、看護師の妻から愛想を尽かされ、夫婦生活を拒絶されてしまう。以降、仕事の配送ルートで、みずからの性欲と金銭欲を満たすための“標的”を探すようになったのである。

犯行後に飲み歩く

そうした理由であったことから、鈴木は若いA子さんとC子さんに対しては、殺害前に強姦しようとして、公園に連れ込んだことがわかっている(うち1件は未遂)。また、B子さんに対しても、当初は赤いレインコートを着た彼女を強姦目的で付け回すも、途中で年配の女性であることがわかったことから、その場で強盗目的に切り替え、まず包丁で刺して殺害し、バッグを強奪したのだった。