夫や交際相手11人の死亡で数億円の遺産を手にし、その後、殺人と強盗殺人未遂の罪に問われ、死刑が確定した筧千佐子。
事件後、獄中で23度もの面会を重ね、取材を続けてきた『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』(幻冬舎アウトロー文庫)の著者である小野一光氏が、死亡した筧死刑囚の素顔を明かす。(全2回の1回目/続きを読む)
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「後妻業の女」筧千佐子、獄中で死亡
12月26日、大阪拘置所に収容されている筧千佐子死刑囚(78)が、その日の午前中に死亡したことが明らかになった。
2007年から13年にかけて、京都府と大阪府、それに兵庫県の計4人の高齢男性に対する、3件の殺人と1件の強盗殺人未遂の罪に問われていた彼女は、1審と2審で死刑判決を下され、いまから3年半前の21年6月に、最高裁が彼女の上告を棄却。同年7月に死刑が確定した。
なお22年9月、彼女は内縁関係にあった兵庫県の男性が被害者となった事件について、京都地裁に再審請求をしたが、今年3月に棄却されている。そのため即時抗告をした大阪高裁で、審理が続けられている最中だった。
私が千佐子と最後に会ったのは、死刑が確定することで、実質的に一般面会ができなくなる少し前の21年7月5日、大阪拘置所に於いてである。詳しくは後述するが、その際の彼女に死の翳は感じられなかった。どちらかといえば、生への執着を強く感じていた。
夫や交際相手の男性に対し、青酸入りカプセルを飲ませて殺害した千佐子の事件は、「近畿連続青酸死事件」という呼び方をされる。しかし、作家の黒川博行氏の小説『後妻業』(文藝春秋)のなかで、年配の女が資産家の高齢男性と結婚、死別を繰り返して多額の遺産を奪う物語が、彼女の事件を彷彿とさせることから、「『後妻業』の女による事件」として、認知されているのではないだろうか。
いくつもの府県をまたぐ連続殺人事件
13年12月に死亡した70代の夫であるIさんへの殺人容疑で、当時67歳の千佐子が逮捕されたのは、14年11月のこと。「(千佐子による)連続殺人の疑惑が濃厚で、京都府警による内偵捜査が行われている」との情報が入ったことで、私が取材に動いたのは、それよりも約8カ月前の同年3月上旬だ。
Iさんの死因が青酸によるものであること、それ以前にも千佐子の周辺で不審死が相次いでいることは、この時点ですでに知っており、一部ではあるが被害者であるとされる男性についての情報も得ていた。
とはいえ、それらの該当者が近畿エリアのいくつもの府県をまたいでいること、他府県警が事故死や病死として扱ってきたという、「誤検視」が露呈してしまう可能性などが障壁となり、その他の案件については、立件が難しいのではないかとの見方もあった。