「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」。そう語るのは、とある“連続殺人犯”である。

 “連続殺人犯”は、なぜ幾度も人を殺害したのか。数多の殺人事件を取材してきたノンフィクションライター・小野一光氏による『連続殺人犯』(文春文庫)から一部を抜粋し、“連続殺人犯”の足跡を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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CASE1筧千佐子

近畿連続青酸死事件

千佐子の結婚観

〈第二の人生に夢ふくらませてます。私の性格は明るくプラス思考で寛容でやさしいです。相手の方への思いやりと尽くすことが私の心意気です。健康管理と明るい家庭が妻のつとめと思います〉

©iStock.com

 これは05年頃に、千佐子がとある結婚相談所で書いた、自身の紹介と相手へのメッセージである。彼女は逮捕されるまでの間に、合計で20カ所以上の結婚相談所に登録していた。それが標的を得る手段だった。

 当時58歳の彼女が相手に求めた条件は、年齢が60歳から73歳まで。身長は160センチメートル以上。婚歴は不問。年収は1100万円くらい。体格は不問。人柄は〈心の広いやさしく誠実な方〉とある。

 また別の結婚相談所の紹介文では、〈生活の安定した方〉を希望の相手としており、自身の趣味については〈料理、読書、旅行、ガーデニング、スポーツ観戦、ドライブ、寺社、仏閣〉と記載していた。

 なかでも興味深いのは、〈あなたの結婚観について〉というアンケートでの千佐子の回答である。設問に対して三択式になっており、彼女は次の答えを選択していた。

 ●妻の仕事について

 結婚後は家庭をしっかり守って仕事はしない

 ●妻は夫の仕事について

 意見を求められた場合のみ言う

 ●家事・掃除等は

 妻にまかせる

 ●夫婦のサイフのひもは

 夫婦で共同管理するのがよい

 また同様に、本人の〈性格に関するアンケート〉では、次のように回答して自己アピールをしている。

 ●家庭的ですか?

 大変家庭的である

 ●細かいことによく気が付く?

 気が付くほうである

 ●負けずぎらいですか?

 そうでもない

 ●芯は強いですか?

 そう強くはない