遺産金を狙って当時交際していた男性4名を殺害した犯人として、2014年に逮捕された筧千佐子の死刑判決が2021年に確定した。過去に例のないほど大規模な「後妻業殺人事件」を起こした犯人はいったいどのような思いで獄中の日々を過ごしているのだろうか。

 ここでは、ノンフィクションライターとして活躍する小野一光氏の新著『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』(幻冬舎アウトロー文庫)の一部を抜粋。獄中の筧氏の心境に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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千佐子からの“恋文”

 東京に戻ったときには、千佐子からすでに2通の手紙が届いていた。それから次の面会までにさらに2通が送られてきた。

 千佐子の手紙には、まるで“恋文”のような言葉が多用される。それに加え、たとえば〈人恋しいです。お会いしたいです(本心で)〉と書かれた葉書では、黒いペン文字に加えて〈人恋しい〉の文字の横には赤い傍線が引かれ、〈お会いしたい〉の文字は赤く囲まれ、〈(本心で)〉の横には赤い傍点が振られている。

 また別の手紙ではこのような言葉もあった。赤く囲まれた〈お会いしたいのです〉との文字に続いて、〈とじこめられた場所にいるので人恋しいのです。こんな処(? シューン)にいるのに、こんな出会い(? ?)があるなんて夢のようです(夢ならさめないで)。自分がおかした罪が消しゴムで消したいです(夢のようなこと言ってスミマセン)。だからといって死ぬ勇気もないダメ女です(シューン2回目ですね)〉とある。

 この手紙では幾度も私に会いたいと記したうえで、最後は〈どこでくらしても、女ですもの。女ですもの……〉と締められている。それは彼女がみずから現役の“女”であることを強調した文面だった。

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 さらに別の手紙では、またもや「死刑」について触れている。

〈私はそのうち、死刑(? シューン)になって小野先生より先にあの世の住民に(先住民)なっておりますので、その時にお会いして御礼と、たくさん、いっぱい、お話したいです。それまでお話して下さい。謝々 スミマセン……〉

 ここでは「死刑」というシリアスな単語に、ユーモラスに落ち込みを表現する「シューン」が続いたり、自己の死を表す「あの世の住民に」という表記に加えて「(先住民)」との補足を加えるなど、理解し難い点も少なくない。だが、すべての手紙を通していえることは、千佐子が私に面会にやってきてほしいという主張をしていることだ。

 彼女は、私に向かって秋波を送ることで、なにを望んでいるのだろうか。