4人の男性を遺産目当てで毒殺したとして2021年に死刑判決を受けた筧千佐子氏。彼女は獄中で自身の犯行をどのように振り返っているのか。ノンフィクションライターの小野一光氏による、22回におよぶ対話と28通の手紙のやり取りから見えてきた「後妻業の女」の本当の姿とは……。
ここでは小野氏の著書『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』(幻冬舎アウトロー文庫)の一部を抜粋。長期にわたる接触で見え隠れした筧氏の本心を探る。(全2回の2回目/前編を読む)
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「憶えてない」がいちばん強い
その3日後、千佐子が名前を出していた吉村さんと電話で話すことができた。そこで私が、千佐子が吉村さんが事業に失敗した際に、数千万円を融資したと話していることを伝えると、彼女は驚いた。
「私は別になにも事業に手を出してませんし、彼女におカネを借りたなんてこともないです」
「千佐子さんは吉村さんが健康食品にハマっていて、それで彼女が大量に買ってあげていたと口にしてるんですが」
「健康食品とかもやってません。だいいち私は、彼女から『私が死んだら娘に領収書を送ってくれ』と言われてたんですよ」
領収書の意味がわからず、尋ねたところ吉村さんは言う。
「私が彼女に300万円貸したんです。その領収書」
「いつ頃ですか?」
「捕まる少し前です。弁護士に使う費用が必要だからということで貸しました。その当時、彼女は自分は殺してないと話していました。だから信用して貸したんです。でも、噓をついていたから、彼女の娘さんに領収書を送ったんです」
「娘さんから連絡は?」
「なしのつぶてでした……」
電話を切り、しばし呆然とした。千佐子と吉村さん、どちらの話が信用できるかは説明するまでもない。
ときを同じくして、精神科医の山中医師(仮名)と会った。千佐子のTEG(性格検査)の結果は、写真に撮って事前に送ってある。また、それに加えて彼女の犯行について説明した資料も添付していた。山中医師は会うなり言う。
「彼女としては、取材を通じて、世間に自分はいい人間だと見せたいんでしょう。うまくいけば裁判に影響を与えたいと思ってる。このTEGには自分がこうなりたいも出たりするんですよ。この結果だけを見ると、ACを除いて全部高い数値が出てるでしょ」
ちなみに再度説明しておくと、TEGはCP(批判的な親の心)、NP(養育的な親の心)、A(大人の心)、FC(自由な子供の心)、AC(順応した子供の心)の五要素の各得点のバランスから、性格や人との関わり方を分析するもの。千佐子はCP、NP、A、FCともに95パーセンタイル(下から数えて100番中95番目ということ)以上なのである。そしてACのみが三十パーセンタイル前後だった。