毒の話題に感情を昂らせる
11回目の面会をしたのは12月19日のことだ。最初の雑談を交わすと、犬の話になって涙を流す。「もう子供の話では泣かへんけど、犬の話になったらすぐに涙が出るわ」と話したそばから、「子供の話は思い出さんようにしてる。考えると落ち込むし」との言葉が出てくる。
この日、私は千佐子が高校時代に仲の良かった吉村秀美さん(仮名)の名前を出した。
「先生、ほんまによう知ってんなあ、すごい調べてるわ。そう。あの人がいちばんの親友。よく互いの家に行ったり、旅行に行ったりしてた。私が北九州に行ったときも彼女の家に泊めて貰ったりとかな……。吉村さんとはクラスが同じで、苗字が『や』と『よ』で並んどるやろ。それで仲良くなったんよ」
そして千佐子は続ける。
「あの人がなんか事業で失敗したときに、1000万か2000万か、私がおカネを貸したんよ。あのときは私もおカネを持っとったからな」
「そのおカネは?」
「私は人におカネを出すときは、返してもらおうとは思ってないから。ほかにもあったわ。私がおカネを持ってるのをどこで聞きつけたのか、いろんな人が助けてほしいってやってきた。それでもう、これまでになんぼおカネを出したか。やっぱ困ってる人を放っておけんやろ」
私は千佐子に「今日もまた付き合った相手について聞くね」と前置きして、「松原市の山口俊哉さん(仮名)、憶えてる?」と尋ねた。
「ああ、おったなあ。あの人は土地をいっぱい持っとった。けど、ケチやったよ。私はなんにも貰ってない。おカネがある人のほうがケチやね」
山口さんについてはこれまでに書いている通り、千佐子が土地を受け継いで名義変更を行っている。また、高橋さん(仮名)の親族らに約4900万円もの返済をした際の原資となったのは、彼の遺産だとされている。だが、私はそれに触れることなく続けた。