夫や交際相手11人の死亡で数億円の遺産を手にし、その後、殺人と強盗殺人未遂の罪に問われ、死刑が確定した筧千佐子。
事件後、獄中で23度もの面会を重ね、取材を続けてきた『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』(幻冬舎アウトロー文庫)の著者である小野一光氏が、死亡した筧死刑囚の素顔を明かす。(全2回の2回目/最初から読む)
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千佐子からの手紙にうかがえる手口
体調など身の回りの話題には能弁だが、事件についての話になると、千佐子の顔はスイッチを切られたように、感情を表す光が消え、目の奥が漆黒の闇で満たされる。途方もない無表情だった。そんな彼女に、どうやって男たちを惹きつけてきたのか尋ねたところ、身を乗り出してきた。
「このままの自然体やから。もうスッピンのまま。相手で変えない。男に媚びない。だからどっちかというと頼られるほうやったな。嘘を言わないし、本当のことをバンバン言うから……」
そう話す彼女だが、私への手紙では「寂しい」や「会いたい」といった言葉を頻発し、明らかな“秋波”を送ってきた。ある手紙には次のようにある。
〈とじこめられた場所にいるので人恋しいのです。こんな処(? シューン)にいるのに、こんな出会い(? ?)があるなんて夢のようです(夢ならさめないで)〉(※かっこ内の文字も含め原文ママ)
この手紙では、幾度も私に会いたいと記したうえで、〈どこでくらしても、女ですもの。女ですもの……〉と締め括られていた。それは千佐子が現役の“女”であることを強調した文面であり、これまで“年上の異性”である被害者たちを籠絡してきた、彼女の手口が窺える文面だった。
私が面会途絶を覚悟のうえ、千佐子の発言の矛盾を指摘したことにより、激怒した彼女とは、18年3月6日の面会を最後に音信が途絶えてしまう。それから3年4カ月の時を経た21年7月5日、間もなく死刑が確定する彼女のいる、大阪拘置所を訪ねることにした。
その際、「千佐子はたぶん会ってくれないだろう」と考えていた私の予想は、あっさり覆されることになる。