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 他にも優れた所蔵品が目白押しですし、バーゼル近郊ののどかな田園風景とあいまって、奇跡のような場所だと思います。

 訪れた当時、私は仕事やプライベートでなにかと心配事を抱えていましたが、すべて忘れられるような癒しのひとときでしたね。アートは人を救うんだと教えてもらいました(笑)。

―― この度、モネの〈睡蓮〉をテーマにした新刊『モネの宝箱』が発売になりました。作品に込めた〈睡蓮〉の役割について、お聞かせいただけますか。

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『モネの宝箱 あの日の睡蓮を探して』 一色さゆり (文春文庫)

 今回はあまり美術史的なうんちくは書いていなくて、それよりも、キャラクターたちが自分の心に向きあうための装置として〈睡蓮〉を登場させています。

 というのも、〈睡蓮〉って、たとえ歴史背景や制作意図を知っていなくても、純粋に楽しめる部類の作品だと思うんです。だから、知識を得ていただくよりも、みんなにとっての心の鏡というか、自分も含めた誰かに対して素直になるきっかけとしての〈睡蓮〉の在り方を、目の前に浮かぶような丁寧な作品描写を心がけながら書きました。

 美術好きの方も、そうでない方も楽しめるような一冊になっていると思います。

©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

大混雑の展覧会を楽しむ、おすすめの回り方

――「モネ 睡蓮のとき」をこれから訪れる方に向けて、何かメッセージがございましたらお願いいたします。

 日本において過去最大規模で、モネの〈睡蓮〉が一堂に会する展覧会ですから、大勢の人がご覧になると思います。なるべく早く、混んでいない時間帯にいらっしゃることをおすすめしますが、ひょっとすると四六時中混んでいるかも(笑)。

 その場合は、無理に全部を見てやろうとは思わず、すいている〈睡蓮〉を選んで、そっと近寄っていただくのがいいのではないでしょうか。偶然の出会いが、なにかの気づきや変化をもたらしてくれるかもしれません。

 あるいは、人混みが苦手という方は、国立西洋美術館はあえて早めに退出して、上野恩賜公園の噴水のある池のベンチなどに腰を下ろし、木々のざわめきに耳を傾け、風を感じながら、まぶたの裏にある自分だけの〈睡蓮〉のイメージに想いを馳せてみるのもおすすめです。