ギャンブル症が発覚するまでは世の中の寵児だった大谷翔平選手の元通訳・水原一平。いったい彼はなぜ輝かしい未来を捨ててまで、ギャンブルを続けたのか? ここでは「ギャンブル症の恐ろしさ」がわかる事例を一挙紹介。長年、精神科医としてギャンブル依存症患者とその苦しみに向き合ってきた帚木蓬生氏の新刊『ギャンブル脳』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

水原一平はなぜ輝かしいキャリアを捨ててまで、ギャンブルを続けたのか? ©getty

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ギャンブル脳と闇バイト

 最近増えているのは、闇バイトに応募しての重大事件です。

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 2023年の1月、狛江市で90歳の女性を強盗目的で殺害した実行犯のひとりは、闇バイトで強盗グループに加わっていました。まだ21歳の若さなのに競艇にはまり、借金が膨らんでいたといいます。事件前、別の傷害事件について、知人男性に「ボコボコにして血だらけにしましたよ」と語っていたそうですから、罪悪感のかけらもなかったのです。

 ギャンブル脳になった本人にとっては、闇バイトで殺人をして大金を手にするのも、一種の大バクチだったのかもしれません。そこにはもはや善悪の判断などかき消えているのが、ギャンブル脳の恐ろしさです。

 もともと犯罪を取り締まるのが務めで、触法行為に目を光らせている警察官でさえも、ギャンブル脳になってしまうと、詐欺に走ってしまいます。その一例は2022年に逮捕・起訴された福岡県警の元巡査部長46歳です。嘘の投資話を同僚に持ち掛けて現金をだまし取ったのです。投資話以外でも、十数年前からさまざまな理由で同僚に借金を依頼し、最終的に借金に応じたのは数十人規模になり、総額も数千万円になるといいます。投資話での被害総額は1000万円超です。この場合は、警察官がだましだまされる関係になっていたわけです。

 発覚したのは内部通報によってですが、懲戒処分ではなく、本部長注意にとどまっています。このあたりにも、ギャンブル脳の恐さを、警察の中枢部が全く理解していない現状が反映されています。

 このあと本人は依願退職をし、見事に退職金を貰っています。しかしこれもギャンブルですべて使い果たしたのか、その後もかつての同僚たちから借り入れを続けていました。そしてついに失踪し、警察が行方を追っていたところ、逮捕されたのは何と長崎市のパチンコ店でした。そこでパチスロをやっていたといいますから、もはやギャンブル脳が人の形をしていると言っていいでしょう。

(略)

 2007年には20代の息子が両親を殺害し、自宅の庭に埋めて逮捕されています。パチンコ・パチスロで300万円の借金があり、母親から叱責されて立腹して殺した悲惨極まる事件です。これは一審で懲役30年でしたが、二審で無期懲役になりました。

 とはいえ、今でも人々の記憶に残っている巨額のギャンブルでの損失は、2011年に発覚した大王製紙会長の106億円でしょう。子会社7社から26回金を振り込ませて、マカオのカジノで費消しました。その後、背任事件として逮捕されて、懲役4年の実刑判決を受けて服役します。