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 刑期満了したのは2017年10月ですが、治療を受けた形跡はないので再発はもはや必至です。いくら本人が「ギャンブルはやめた」と豪語していてもです。その証拠に2023年には、韓国のバカラ賭博場にいる姿が見つかっています。

 そうです、いったんピクルスになったギャンブル脳は、二度と元のキュウリの脳には戻りません。治療によってギャンブルがとまる回復があるだけです。治療をやめるとまたギャンブルは再開されます。

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 そして、世界中の人々がギャンブル脳の怖さをまざまざと見せつけられたのは、2024年4月に米連邦検察から訴追された大谷選手の元通訳です。

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 違法なスポーツ賭博でこしらえた多額の借金返済のため、大谷選手の口座から約26億円を、違法な賭け屋に不正送金していたのです。2021年12月からの2年間で、合計1万9000回、1日平均25回も賭博を繰り返していました。罪状は銀行詐欺と不正な所得申告です。

信頼関係が壊れる前の大谷選手と水原一平 ©getty

 私自身は、この大事件が報道されたとき、精神科の同僚から「よかったね」と何回も声をかけられました。これまで35年以上、ギャンブル脳の恐ろしさを、さまざまな機会をとらえて警鐘を鳴らし、多数の論文と本を書いて来たのに、精神医学会の反応は冷やかだったのです。ギャンブル症に効く薬はないので、精神科医はこの病気に大して興味を持ちません。悲しいかな精神科医の目には、薬の効かない病気は存在しないのと同じなのです。

 元通訳は、ギャンブル症が発覚するまでは世の中の寵児でした。通訳だけでなく、キャッチボールや私生活でも単身者の大谷選手を支え、その能力を大いに発揮できるように援助していました。日本の英語の教科書には、その通訳以上の仕事ぶりを紹介する記事を用意していた出版社もあったほどです。大谷選手が寄せる信頼も絶大なものがあったはずです。このままいけば、生涯の友人として世間から誉め称えられていたでしょう。

 しかしその信頼も、将来の栄光も、ギャンブル脳の前には何の価値もないのです。悪事に手を染めれば、どういう将来が待ち受けているかさえも、想像できなくなっています。

 この事件ほど、ギャンブル脳の本質を明らかにしてくれた実例はありません。しかもギャンブル脳の実態を世界中に広めてくれたわけですから、同僚たちが「よかったね」と言うように、私自身、悲しい事件ながら、少しは「よかった」面があったと感じています。

 これから米国裁判所が元通訳にどういう判決を言い渡すのか、世間は注目しています。私自身は、裁判所がギャンブル症の治療を命じるかどうかに興味を持っています。何年間服役したとしても、刑務所内での治療がなければ、出所後にまたギャンブルが始まるからです。元通訳の4倍の金額をギャンブルに費消した、前述の会長がよい見本です。

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