「バスタオル1枚姿の女性が外にいる」――かつて無線でそんな連絡を受信した新人警察官。東京の寒空で、しかも午前1時の深夜に若い女性が路上に立っていた理由とは…? 同事件の結末を、元警察官の肩書を持つ安沼保夫氏の新刊『警察官のこのこ日記――本日、花金チャンス、職務質問、任意でご協力お願いします』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

新米警察官が見た「バスタオル1枚姿の女性」の正体とは…? 写真はイメージ ©AFLO

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バスタオル1枚姿の女性の正体は…

 秋も深まったある夜勤時、時計は午前1時を回っていた。

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「調布管内、『バスタオル1枚姿の女性が外にいる』、110番、PB員は現場へ。場所、調布市××町2丁目……」

 受令機という小型ラジオサイズの機器からイヤホンを通じて連絡が入る。「PB」というのは「ポリスボックス」の略語だ。××町2丁目なら、うちの「PB」の管轄だ。私はすぐさま、外套と呼ばれる長い防寒コートを手に、浦口(筆者の上司の巡査部長)とともに現場に向かった。

 現場はこのあたりでは名の知れた大邸宅の前で、駆けつけると20歳くらいの女性が本当にバスタオル1枚を巻いただけの姿で呆然と立ちつくしていた。その隣には高校生くらいの女性が付き添うようにしていた(彼女は服を着ていた)。

 臨場中は「バスタオル姿の若い女性」に好奇心丸出しだったものの、その姿をいざ目の当たりにすると、どうしたらよいかオロオロする女性がかわいそうになる。すぐに持参した外套を羽織らせて話を聞くと、彼女はこの大邸宅の娘で、風呂あがりに父親に怒られて、そのまま外に放り出されたのだと言う。隣の女性は躇なく通報していただきたい。迷子や迷い人が出たり、保護したりした場合も110番でOK。緊急対応を必要としない警察への相談は、警察相談専用電話「#9110」番を利用してもらいたい。

バスタオル姿の女性。写真はイメージ ©getty

 彼女の妹で、姉を心配して家から出てきたらしい。

 チャイムを押して、「近所から通報があった」旨を伝えて、浦口と2人で自宅にあがらせてもらう。学校の教室ほどのリビングに、家電量販店でしか見たことない巨大テレビがあり、高級そうなソファーに酔っ払った父親が座っていた。