浦口は部屋に入るや、一言目に「娘さんを裸で外に出すなんて、あんた、ナニ考えてんだ!」と怒鳴る。売り言葉に買い言葉で父親も「部外者はすっこんでろ!」と激昂。もともと浦口は高圧的な口調でそれまでもいくつかのトラブルを招いていた。会って一言目にこんな言い方をしたら問題はこじれるだけだ。私は事態を収拾するためにできるだけ穏やかな口調で父親に話しかける。
「お父さん、まずは事情を聞かせてください」
父親の話によると、娘が父名義のクレジットカードで多額の買い物を繰り返し、何度注意してもきかないのでブチ切れたらしい。事情はわからないでもないが、年頃の娘を半裸で外に出すというのもいかがなものか。
「なるほど、お気持ちはよくわかりますが、ご近所の目もありますし……」
そんなふうにやりとりすると、父親もだんだん冷静になっていく。
10分も話をするうちに父親もやりすぎたと反省し、服を着てリビングに戻ってきた娘とも和解と相成った。浦口だけは腹の虫がおさまらないらしく、終始ぶぜんとした表情だったものの、最後には父親が「お手数をおかけして、すみませんでした」とわれわれに頭を下げたのだった。
無事に現場処理をして、父親と娘さん2人に玄関まで見送られて豪邸を辞去。
交番に戻ろうと玄関前に停めていた自転車に乗ったところで、制服姿の“ゴンゾウ(窓際族警察官を指す隠語)”が自転車をゆっくり駆ってやってきた。
「ポロリ、あった?」
「バスタオル女子、いた?」
110番通報は、通信指令本部から「方面系」と呼ばれる無線で、調布管内だけでなく三鷹や府中といった「第8方面」の警察署にいっせいに流される。われわれと同じタイミングで通報を聞いたゴンゾウが、遠方から興味津々でのこのこと駆けつけてきたというわけだ。
「大丈夫。もう解決したから」
浦口がぶっきらぼうにそう言うと、ゴンゾウは私のほうに顔を向け、「安沼、見た? もしかしてポロリ、あった?」と鼻息荒く聞いてくるのだった。
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