「はい、盗られたのは下着の上下だけみたいです」
事務的に会話し、被害品欄に「ブラジャー、パンツ」と書こうとして手が止まる。ブラジャーはいいが、ズボンもパンツというし、混乱しないだろうか……。
うーん。少し考えて「パンティー」と書いた。
特徴欄にはなるべく詳細な特徴を書く。もし被害品が見つかった場合に「それ」であると特定するためだ。
会話内容だけならただの変態男
「どんな色ですか?」
「あ、赤です」
「赤……真っ赤ですか?」
「……はい」
「形は?」
「ふつうの……」
「柄とか、何か模様とかありますか?」
「……」
盗品の事情聴取とはいえ、本人の下着を事細かに聞く。会話内容だけならただの変態男。だんだん気まずくなってくる。
一応、パンティーの詳細は書き留めたが、聴取はまだ終わらない。時価の記載が必要なのだ。時価というのは、そのモノが一般的にいくらくらいで取引されるかということ。たとえば、時計を盗まれたのであれば、国産の一般的なものと海外ブランドの高級品とでは大きく価格が異なるため、おおよその目安を記載しておく必要がある。
とはいえ、すでに着用した衣類でしかも下着となると(一部、高値で取引されているマーケットをのぞいて)古着屋でも買い取りNGで値段などつかないだろう。そんなことを考えつつ、「時価を記載しなければならないのですが……500円くらいですかね?」。
私がそう言うと、女性の表情が変わった。
「そんなに安くありません!」
こんなことで署にクレームを入れられても困る。別に値段を高くしたところで被害女性にはメリットもない旨を丁寧に説明し、「それじゃあ、1000円くらいでどうでしょうか?」「まあ……それでいいですけど」
女性もしぶしぶという感じで受け入れてくれた。
今回は室内へ侵入した形跡も見られないため、被害届をとり、「戸締りはしっかりしてください。今後もし不審者を見かけたらすぐ110番してください」と防犯指導をして完了となる。
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