「組織に忠実なものは、いつかは組織に裏切られると。忠実であればあるほど裏切られると」。映画「仁義なき戦い」などで知られる脚本家の笠原和夫は、自分に影響を及ぼした文学作品をこう語るのだが(注1)、日大アメフト部騒動を目の当たりにしたとき、そこに「組織に忠実なものが組織に裏切られる」構造をみる。

日大アメフト部・内田正人前監督(中央) ©吉田暁史/文藝春秋

東芝社員が「虎の威」を借りたとき

 反則タックルをおかした選手への追い込み方はこうだ。問題の端緒となる関西学院大学との定期戦の前日、井上コーチは「お前をどうしたら試合に出せるか監督に聞いてやったよ。“相手のQBを1プレー目で潰せば出してやる”ってさ。その通りの言葉をまずは監督に言いに行け!」(注2)というのであった。 

 山口組の顧問弁護士だった山之内幸夫は、ヒットマンとは「温もりの代償に人生を差し出」す者のことだと言い表した(注3)。行き場のない者に居場所を与えるなどしたのだから、殺ってこいというわけだ。くだんの選手も出場機会を得る見返りに、相手チームの選手にケガを負わせることを強いられる。

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記者会見した内田前監督 ©時事通信社

 会社を例にすれば、東芝社員・OBからの800通におよぶ内部告発をもとに書かれた小笠原啓『東芝 粉飾の原点』にこんなくだりがある。《グレーな会計処理を命じるときには、親会社のトップの名前を使うのが通例だった。「(自分が)佐々木さんにどんなに酷いこと言われたのか分かっているのか」「既に田中さんに報告されている数字だ」など虎の威を借ることで、その指示は絶対だと部下に思い込ませるのが狙いだろう。》