「これくらいやらないと勝てない」の論理
日大の監督・コーチ会見ではこう発言する場面もあった。「まさか、ああいうことになるとは」。本当のところは「まさか『こんな騒ぎ』になるとは」ではなかったか。内輪の論理では「これくらいやらないと勝てない」だったり「どこもやっている」だったりするのだろう。実際、内田監督は、関学戦直後に「何年か前の関学が一番汚いでしょ」「ウチはエリート揃ってないから必死なんですよ、何をやるにも」と記者相手に喋っている(注4)。
過労死を引き起こした電通とて、「広告の世界では、深夜まで働くのが当たり前」であったろう。それが事件化して、違法性を問われると戸惑ってしまう。このように組織では、内部の雰囲気が優先され、その雰囲気が、ときに不正義を生む。それがひとたび社会問題になったり、警察沙汰となってはじめて法・契約に向き合うことになる。『雇用は契約 雰囲気に負けない働き方』という書籍(玄田有史著・筑摩書房刊)があるが、言い得て妙のタイトルである。
「仁義なき戦い」美能幸三の言葉
話を日大アメフト部に戻せば、週刊文春がすっぱ抜いた試合直後のオフレコ取材の中で、内田監督は加害選手について、故意の反則行為をしたことで調子が「そろそろ良くなるんじゃないですかね」と言い、「法律的には良くないかもしれないけど、そうでしょ」と続けている(注4)。まるで法や社会規範のラチ外にいるかのようだ。
こうした者が上にたつ組織はいかなるものか。試合後、加害選手は涙を流し、まわりは彼に「悪くない」と声をかけたという。それが物語るものを、「仁義なき戦い」のモデル・美能幸三はこう言い表している。「つまらん連中が上に立ったから、下の者が苦労し、流血を重ねたのである」。
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(注1)笠原和夫・荒井晴彦・絓秀実『昭和の劇―映画脚本家・笠原和夫』太田出版
(注2)週刊新潮 2018年5月31日号
(注3)週刊アサヒ芸能・特別編集『山口組 百年の血風録』徳間書店
(注4)週刊文春 2018年5月31日号