品川駅でのシナジー効果

 当社の2024年3月期の営業収益(売上高)は約3892億円ですが、そのうち運輸業が約90%を占めているので、「鉄道一本足打法」と指摘されることもあります。

 ただ、これは言い換えれば当社の強みでもある。東京メトロは全9路線のうち、七つの路線で相互直通運転を行い、他社の電車が神奈川や埼玉、千葉から直接都心に乗り入れます。メトロの路線は合計195キロに及び、輸送人員は1日平均650万人以上、年間で約23億人超になります。都心だけでこれほどのネットワークを持つのは大きな財産です。

山村氏 Ⓒ文藝春秋

 ただ、コロナ禍では運輸収入が激減しましたし、今後はゲリラ豪雨などによる大規模浸水への対策も必要です。鉄道だけに頼らない強靭な経営が求められているのも確かですから、不動産や流通、広告事業も伸ばしていかなくてはなりません。

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 当社では、こうした非鉄道分野を「都市・生活創造事業」と呼んでいますが、駅ナカや駅の出口周辺の小規模な不動産開発に留まらず、文字通り、都市や生活に関わる街づくりが求められていると思います。鉄道と非鉄道分野の両面でシナジー効果を生み出しながら大きく成長していく。これが東京メトロの大きな方針です。

 当社の未来への成長戦略である有楽町線と南北線の延伸についても、大きなシナジー効果を期待しています。有楽町線は豊洲駅から東西線の東陽町駅を経て住吉駅まで、南北線は白金高輪駅から品川駅まで。約4000億円の総建設費を見込むビッグプロジェクトで、どちらも昨年11月に工事が始まり、2030年代半ばの開業が目標です。

 これまで、豊洲駅から住吉駅までは約20分かかっていましたが約9分で行けることになり、南北線の延伸で、六本木一丁目駅から品川駅も従来の約19分から約9分に短縮されます。

 利便性向上だけではありません。有楽町線は延伸することで、半蔵門線などと接続し、豊洲などのベイエリアから東京の東部、北部へのアクセス性が高まる。街づくりにおいても、枝川駅と千石駅(ともに仮称。江東区)が新設される意味は極めて大きいものがあります。たとえば、清澄白河周辺は、半蔵門線の延伸に伴って東京メトロの新たな駅ができたことで、古民家カフェやバル、ギャラリーなどが数多くでき、オシャレな街として人が集まるようになった。江東区長を務めた故・山﨑孝明さんも、「大きく様変わりした」と驚いたほどです。

上野にある東京メトロ本社 Ⓒ文藝春秋

 江東区では新駅の建設に向けて「まちづくり協議会」が立ち上がり、「こんな店が欲しい、あんな施設が必要だ」と地元の方々の夢を集めるアンケートを実施しています。沿線上には、当社の自社用地もありますから、これを有効活用しつつ、周辺の地権者や江東区とも相談をしながら、新たな街づくりを構想していきたいと考えています。

 南北線の延伸で、巨大ターミナル・品川駅と地下鉄がつながる意味も極めて大きい。品川は、東海道新幹線の駅があり、羽田空港にもつながる巨大な交通結節点。ここを始発とするリニア中央新幹線の開業も控え、目下、周辺の開発がどんどん進んでいます。巨大ターミナルの中で東京メトロがつながっていなかった唯一の駅でしたから、今後、大きなシナジー効果が生まれてくると思っています。

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「〈ついに上場〉時価総額1兆円 東京メトロの街づくり」)。
全文では、上場に至った大きな契機、世界で最も利用者数の多い鉄道駅・新宿での開発計画、上野での「ランドマーク」建設の展望、鉄道発祥の地・ロンドンでの初受注、満員電車をなくすための取り組みなどについて語られています。

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