「オレみたいなジジイと付き合うのをやめて若いのと付き合ってもいいんだぞ」

「どうしてそんなことを言うの?」

「オレは年だし、ワガママだからな…」

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「2度目の殺人」を実行した理由

 千尋はさらに苦しんだ。もしかしたら自分と別れたがっているのではないか。また、あのときと同じだ。自分を捨てようとしているに違いない。他の女に取られるぐらいなら、殺してしまった方がいい。一度ハードルを越えた女は、2度目も簡単にハードルを越えるのだろうか。

 事件当日、田中さんはいつものように朝ごはんを食べにやって来て、普通に会社に出かけた。夜も来ることになっていたので、千尋はビールとつまみを買いに行き、そのついでに刃渡り18センチの包丁を購入した。

 田中さんはその日、酔っ払ってくだを巻き、「オレは年だから、若いのと付き合ったらどうだ」「1人になりたい。自由がいい」などと言って、千尋を困らせた。

「どうしてそういうことを言うの。私はもう、あなたと結婚するって決めてるのに…」

 千尋が泣きながら尋ねても、答えようとしない。

 殺意が芽生えた千尋は睡眠薬入りのワインを飲ませた。やがて田中さんは薬が効いてきたのか、ベッドの方に行って眠ってしまった。

 千尋は新品の包丁を取り出して近付いた。目を覚ませば、また別れ話になるだろう。それならここで、関係を終わらせた方がいい。

写真はイメージ ©getty

 湧き上がる感情をコントロールすることができなかった千尋は、田中さんを滅多刺しにして殺害した。

 気が付くと、血の海の中で座り込んでいた。