かつて夫を殺害した、ある女性。出所後の彼女は仕事先を通じて、新しい恋人を見つけるも、またもや「殺人の衝動」にかられてしまう。いったいなぜ彼女は罪を重ねてしまったのか? 2019年に東京で起きた事件の顛末をお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)
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恋人に「人殺し」であることを打ち明けると…
そのときに千尋は思い切って自分の過去のことを話した。田中さんは「そんなことは関係ない。辛い思いをしてきたんだね」と言って、千尋の腹に残る傷跡を見て泣いてくれた。
この人なら信頼できる。心の支えになってくれる人ができた。千尋は4度目の結婚をする決意を固めた。
ところが、そうなると田中さんがそばにいないと、寂しくて仕方なくなり、何度も自殺未遂を図っては、警察を呼ぶという行為を繰り返すようになった。
田中さんは見かねて朝から千尋の家に向かい、朝食を一緒に食べてから会社に出かけるという生活を送るようになった。夜も必ず千尋の家に寄り、泊まれるときは泊まった。そのうち、千尋の症状も改善された。
千尋は更生保護施設の職員にも田中さんのことを「婚約者」として紹介した。田中さんもその場で、「結婚を考えて付き合っております」と言ってくれた。
千尋はますます田中さんに依存するようになった。しかし、すべてがうまくいっていたはずなのに、ある日、田中さんが前回の事件の記事のコピーを持ってやってきた。
「今でも名前をネットに打ち込んだら出てきてしまうんだな」
「どうすればいい?」
「そのままでいい。いずれ消えるだろうから」
千尋は田中さんの意図が分からず、悶々と苦しんだ。
それからしばらく経って泊まりに来たときに、こんなことを言われた。