「吹雪に死神」は、特殊設定ミステリーの先駆的作品

──ミステリーのド定番シチュエーションに挑まれた第三編「吹雪に死神」を読むと、本書は近年の小説界でブームとなっている「特殊設定ミステリー」の先駆的作品だったと感じます。

伊坂 もともとデビュー作の『オーデュボンの祈り』は、山口雅也さんの『生ける屍の死』(※1989年刊。特殊設定ミステリーの元祖と言われる)から影響を受けて書いたんです。『死神の精度』も、その流れの先に出てきたものなんですよね。ただ、「死神と藤田」みたいなミステリーっぽくない話も入っているので、あまりそうは思われていないかもしれません。特殊設定ミステリーが盛り上がってきた今、その仲間にも入れてもらいたいです(笑)。

新装版のカバーを手がけるのは、グラフィックデザイナーの小林寛さん ©文藝春秋

──本書は20年前に発表されたものですが、全く古びていないなと感じました。2025年の新作ですと言われたとしても、違和感なく受け止めることになったと思います。

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伊坂 僕も今回、十数年ぶりに読み返したんですが、スマホや「検索」が出てこないものの、あまり古くさくなくて、ホッとしました。頑張って工夫しているなとも思いました(笑)。例えば、死神の千葉さんがどうやって対象者と接触するのかも、手を替え品を替えで、毎回変化をつけている。あと、読み返して初めて気づいたんですが、この作品ってハードボイルド小説っぽいな、と。社会の外側にいるアウトローの視点から観察して、社会ってこういう仕組みでできているよねとか、人間にはこういう面があるよねと書いていくやり方が、ハードボイルド小説っぽいんです。湿っぽくなく、ドライな感じとか。

──死神は、人間の姿をまとっていながらも、人間社会の外側に立つ究極のアウトローですよね。

伊坂 僕はもともと、人間ってこうだよねとか、社会ってこういう仕組みだよね、ということを書きがちなんですけど、そういうのって偉そうじゃないですか(笑)。僕もその人間なのに、って。ただ、このお話の中であれば、そういうことを書いても「死神が言ってることだから」で割り切れるんですよね。だから、自由に楽しく書けたんだと思います。死神が言うことは人間からしてみればズレているから、そこでユーモアも出せる。僕はマンガも大好きなんですけど、マンガっぽさとリアルさのちょうどいいバランスのところで、ドラマが起きている。読んでいたら、なんだか、これはめちゃめちゃ僕好みの小説だなあ、と思っちゃいました(笑)。

このインタビューは『死神の精度〈新装版〉』に収録されている、著者特別インタビューの抜粋です。

死神の精度 (文春文庫)

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