中国屈指のホラー&ミステリ作家・蔡駿氏の来日に合わせ、11月2日に日本出版クラブ(千代田区神田神保町)でトークショーが開催された。
昨年日本で翻訳された蔡駿氏の長篇『幽霊ホテルからの手紙』(文藝春秋)と『忘却の河』(竹書房文庫)はともに『2024年版 このホラーがすごい!』にランクインし、中国を代表するエンターテインメント作家の実力を見せつけた。
蔡駿氏と同様ホラーとミステリの二刀流で活躍する三津田信三氏、ミステリ&ホラー評論の泰斗・三橋曉氏、『幽霊ホテルからの手紙』の翻訳者・舩山むつみ氏がその創作の秘密に迫る。
司会 開会に当たりまして、蔡駿さんから一言ご挨拶をいただきます。
蔡駿 まずはゲストスピーカーとしてご参加くださった三人の先生方にお礼を申し上げます。また、雨の中をこんなにたくさんのみなさんにお越しいただき、中国のミステリやホラーについて意見を交換できる場を持つことができて大変嬉しく思います。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
三津田 『幽霊ホテルからの手紙』と『忘却の河』を大変面白く読ませていただきました。日本ではこの二作はいずれも昨年翻訳され、2か月ほどの間に相次いで刊行されたのですが、私が驚いたのは『幽霊ホテルからの手紙』に較べて『忘却の河』はエンターテインメント性が大きく進化しているという点でした。
原本の刊行年を調べてみると、『幽霊ホテルからの手紙』が2004年で『忘却の河』は2013年、つまり間が9年開いていたんですね。この9年間のエンタメ作家としての成長といったものを、蔡駿さんご自身は感じていらっしゃいますか?
蔡駿 ご指摘の通り、この二つの作品はそれぞれ違う年に執筆されましたので、当時の私の年齢や時代の流れによって私の文学に対する理解や認識も変化してきたと思います。『幽霊ホテルからの手紙』は文学の伝統に則った耽美的な要素に重点を置いて書いたと思います。ですから作品の舞台も現実世界から隔離された場所に設定して、サスペンス的な作品に仕上げました。
一方『忘却の河』は、もっとストレートに現実社会に生きる中国人が直面する様々な困難を描いています。主人公は輪廻転生して生まれ変わってもなお復讐したいという怨念を抱いています。それはすなわち、現実の社会に対する批判を表しています。同時に、この作品では親と子、あるいは恋人同士の極限にまで達した深い愛を描きたいと思いました。