中学受験をする家庭にとって、多くの学校の受験初日となる2月1日から合格を手にするまでの日々は緊張の連続。

 5年にわたる取材で中学受験家庭の入試までの道のりを描いたルポ『中学受験のリアル』(集英社インターナショナル)では、詳細な様子を描いているが、入試開始日から合格を手にするまでにかかる時間はそれぞれに違う。すんなりと志望校の合格を手にする子どもがいる一方で、なかなか合格の二文字に出会えずに長く苦しい戦いとなるケースもある。

 2人の子の受験を経験した都内在住の女性は、中学受験のニュースを見る度に子どもたちの受験期を思い出して胸が詰まる思いがするという。長女は初日に第一志望の合格が決まったが、息子Aくんの受験は全く違った。同じように対策をしたはずが、受験日が近づいても手応えを感じられず、2月の受験シーズンに突入した。

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中学受験の合格発表の様子 ©時事通信社

 Aくんの家庭はもともと、“私立中学に絶対に入れたい!”というスタンスではなかった。子どもに合った学校が見つかり、本人が行きたいと望むなら受験をしようという考えで、「地元公立中でもいいんだからね」と、息子とも話していた。

 息子が志望したのは、偏差値50そこそこのいわゆる中堅校だった。最近は中学受験を目指す家庭の裾野が広がったこともあり、中学受験のボリュームゾーンとなっている。

 偏差値60を上回る難関校に合格することが難しいのはよく知られている。だがその下のレベルを目指して受験する子どもが増えたことで、模試会社が発表する偏差値表ではさほど高い数字でなくても、倍率が上がり合格が難しくなっている。時には、見た目の学校偏差値を大きく上回る子どもでさえ、合格確実ということでは決してないのが現状だ。

©AFLO

「次の筑駒、願書出した?」「出したよ。受けるでしょ?」

 Aくんが受けたのもまさにそんな学校で、近年人気が高まっていた。それもあり、入試初日の保護者控え室は満員の状態だった。母親が空いていた席に座って息子を待っていると、元々知り合い同士といった雰囲気の他の保護者たちの声が聞こえてきた。

「次の筑駒、願書出した?」

「出したよ。受けるでしょ?」

 元々知り合い同士といった雰囲気の3~4人の母親たちがそんな会話を交わしていたのだ。

“筑駒”は筑波大附属駒場の略だが、筑駒は偏差値70を超える国立の男子校だ。

 Aくんの母親はそれを聞いて、偏差値50前後の学校なのに筑駒を目指すような子が受験に来ているのかと驚いた。「そんなレベルの子が受けているのなら、落ちるかも知れない」と不安になると同時に、「うちはここが第一志望校、そんな高みを目指す人達は頼むから来ないでほしい」と思ってしまったという。