いよいよロシアW杯が始まる。その舞台となるのが、ロシアの西部に位置する11都市の12のスタジアムだ。これらのスタジアムの建設と整備には8000億円以上が投じられたと報じられており、今年3月にはFIFAの最終的な視察が行われ、いずれのスタジアムも試合に支障のないことが確認された。
だが、ロシアといえばソチ冬季五輪の際のずさんな工事を思い起こされる方も多いだろう。筆者はソ連・ロシア建築史を専門とする立場からW杯スタジアムの建設についても注目してきたが、今回も計画通り建設されたスタジアムはほぼ皆無で、度重なる設計変更や予算オーバー、建設会社の倒産など、問題が尽きなかった。そんな紆余曲折も含めて、ここではこれらロシアのスタジアムを紹介していきたい。
サマーラ・アリーナ 予算超過のUFO建築
サマーラ・アリーナの特徴は、なんといってもメタリックな外観にある。都市の一番高い、つまり一番空に近い場所に位置しており、今まさに飛び立とうとしているUFOを思わせる。このデザインは、ソ連時代から宇宙工学の拠点であった都市サマーラの自負を示している。遠赤外線による客席暖房など設備も充実しているが、予算超過でデザインは二転三転し、2017年12月だった完成予定日は、今年4月のテスト・マッチ直前までずれ込んだ。
カザン・アリーナ スタジアム職人の仕事
ロシア連邦は22の共和国から構成されている。カザン・アリーナはその中のタタルスタン共和国の首都に位置し、2013年にW杯スタジアムとしては最初にオープンした。建築家は、スポーツ施設を専門とする建築事務所Populous所属のオーストラリア人建築家デイモン・ラヴェリ。彼はソチ五輪のメイン会場であったフィシュト・スタジアムの設計者でもある。全体の形は睡蓮の花を模しており、ファサードは巨大なスクリーンになっている。