誰も「指導」をしていない
私は彼らが叱られているのを聞いているうち、あることに気がつきました。
誰も、彼らに「指導」をしていないのです。
ミスをしたことに対して「怒り」の感情を露わにしているものの、「なぜそういうミスが起こったのか」は聞き取りせず、「どうしてくれるんだ」「何てことをしてくれたんだ」という言葉で責め立てるだけ。
本来、一番重要であるはずの「今後ミスをなくすためにどうすればいいか?」を教えている人が誰もいなかったのです。私はこの様子を見て「ああ、どうりでミスが繰り返されるわけだ」と思いました。
忙しい会社ほど……
忙しい会社ほど顕著なのですが、激務ゆえにみんながイライラしていたり、追い詰められたりしていることがあります。そんなイライラのはけ口にされやすいのが「仕事ができない人」や「新人」だと思うのです。
彼らは、職場においては「弱者」です。本来は、先輩から教育を受けることができる立場ですし、一人前に仕事ができるようになるまではサポートを必要としている人たちです。しかし私が見てきた会社では、それは「理想論」にすぎませんでした。忙しさのせいでみんな余裕がなく、社内には常にピリピリした空気が立ち込めていて、彼らに対しては特にひどい態度を取る人が多くいました。
「あの人は仕事ができなくて嫌われているから、きつい態度で当たってもいい」
次第にそんな風潮ができあがり、彼らの上司だけでなく同僚、後輩たちでさえも、普段から理不尽な態度を取ったり、彼らを馬鹿にするようになっていったのです。
これはれっきとした「いじめ」ではないのでしょうか。
「怒ること」はメインではないはず
本人が努力することはもちろんのことながら、ミスを本当になくしたいのであれば、彼らと真剣に向き合って指導するはずなのです。ところが実際は「ミスのせいで手間を取らされた」「イライラさせられた」という感情ばかりが先行して、「指導」ではなく「怒ること」がメインになってしまっているケースが散見される。
こういう怒り方しかしていないくせに、彼らがまたミスをしたときには「なんてことをしてくれた!」とわめき散らして、これを延々と繰り返している。こんな状態で、ミスの再発を防げるはずがないじゃないですか。「どうしてミスをする前にやり方を聞かなかったんだ!」なんて責めるけれど、わからないことを聞いたりすると威圧的な態度を取られるのがわかっているから、彼らだって萎縮してるんじゃないですか。